
ギリギリのライン上で生まれる一番絶妙な部分。
撮影を拝見していて長年のチーム感があるなと感じたのですが、それぞれ知り合ったのは、太朗さんがTENDRE名義で活動し始めてからですか?
TENDRE:カンくんとはAAMMYYの現場で初めて会って、仲良くなったんですよね。あれ、いつくらいでしたっけ?
スタイリスト 渕上カン(以下、渕上):2018年とかかな。
TENDRE:そうだ、4年前くらいですね。その頃にはもうTENDREを名乗っています。キムとはそれよりもうちょい前に出会っていて。
ヘアメイク 木村一真(以下、木村):ガレージで会ったのが最初ですね。
TENDRE:下北沢のGARAGEってライブハウスで、キムが当時所属していた美容室(祐天寺のdarlin.)がちょこちょこライブイベントをやっていて。
木村:そのときのことはよく覚えています。「どういう音楽やってるんですか?」って話から、音源のCDをもらったんですよね。
TENDRE:そうだそうだ。その頃のGARAGEっていろんな人がわちゃわちゃと集まる場所だったんですが、わちゃわちゃとしているなかでちょろっとだけ会話をして。
木村:太朗さんは座っていたんですけど、“座ってる”というよりは“佇んでる”感じだったんですよね。かっこいい人だなと思って、僕から話しかけてみたんです。
まだ活動も、音も知らない状態で。
木村:そうですね。派手ではないけどシュッとしてるというか、そんな第一印象でした。「この人、どんな人なんだろう?」ってすごく興味が湧いて。
TENDRE:それが5年くらい前のことで、3人でいろいろとやれるようになったのはここ最近の話ですね。これまでにさまざまな現場を3人で乗り越えてきた感じはあります。
特にMVで御二方のクレジットを見ることが多いように思うのですが、直近のMV『FANTASY』を例に挙げると、スタイルやビジュアルのイメージはどのように組み立てていったんですか?
TENDRE:曲に合わせた具体的なオーダーを出してそれに沿って作ってもらう、という感じではなくて、2人のそのときのムードと僕が持ってきたイメージを織り交ぜて、ひとつひとつ方向性を決めていきました。
渕上:スタイリングは、太朗ちゃんと「最近はこういうのが気分なんだよね」って会話したところからワードを拾ってきて、曲の雰囲気に合わせて肉付けした感じですね。そのワードが“ネクタイ”だったんですけど。
TENDRE:ピシッと締めたかったんですよね。“TENDRE”という言葉には“柔らかい”や“優しい”というニュアンスがありますが、今回のビジュアルではむしろたくましく見せたいと思っていたんです。この2年間は仮想世界で描かれたようなことが現実に起きてしまったので、その渦中でどうすれば強くいられるか、ということをここ最近ずっと考えていました。そんな話を、カンくんとしていたんです。
なるほど。今回はネクタイからスタイルを構築したとのことですがもう少し全体の話で、太朗さんのスタイルを作るうえでは特にどういったことを意識していますか?
渕上:まず大前提として、“らしさ”を活かしてどう見せるか、ですね。僕が思っている太朗ちゃんらしさは、男臭さと品(ひん)。これらをどういうアプローチで表現するのかは毎回意識してます。特に、品は絶対にキープしたい。いつでもおばあちゃんに会いに行ける格好というか(笑)。誰に会っても大丈夫、だけど普通ではない、みたいなね。話すと長くなるんすけど、男臭さと品、このバランスですね。
木村さんはいかがですか?
木村:感覚的な話になってしまいますが、太朗さんと一緒の現場では、さりげない挑戦を毎回させてもらっています。太朗さんに「これ、大丈夫?」って思われるギリギリのところと、僕にとっての「これ、いける?」のギリギリのラインを模索しながら。
TENDRE:ラインを越えるか越えないかのギリギリで生まれる一番絶妙な部分っていうのは、音楽作りでもすごく意識している部分ですね。カンくんとキムの2人の意見は、TENDREとしての自分の見せ方における幅を拡張するためにも、すごく頼りにしています。「あ、意外と俺はこうあってもいいんだな」といつも気付きを与えてくれるというか。 自分の脳みそだけだと「これはどうなんだろう?」ってことが、音楽作りも含めて結構あるんですよね。

ということは、ビジュアル作りの核であるお2人の存在が、自身の音楽に与えている影響も少なからずあると。
TENDRE:そうですね。そもそも2人とも音楽が大好きだし、僕の音楽もずっと聴いてくれていて。ワンマン(ライブ)のときに、爆踊りしてる2人を見たこともあります(笑)。
太朗さんの音楽やMVから、共感覚という言葉が思い浮かんだんです。視覚から聴覚、聴覚から視覚がすごくシームレスだなと。
TENDRE:映画が好きで音楽も映像的に作ることが多いので、それはひとつ理由としてあるかもしれませんね。
映像的と言いますと。
TENDRE:TENDREという登場人物がいて、1曲の世界の中で彼にどう演じてもらうか、配役を決めるイメージです。ストーリーテラーとして曲の中に存在してもらうのか、はたまた物語の主人公としていろんなことに悩んだり気づいたりしてもらうのか。あとはTENDREの楽曲はボーカルを主軸としたものが多いので、自分がどんなシチュエーションでどんな表情で歌っているかを思い浮かべながら作っています。
その世界観の強度を上げるためには、もちろんヘアメイクやスタイリングはかなり重要ですよね。
TENDRE:はい、すごく大事です。そういった意味では『FANTASY』のMVのネクタイはとても分かりやすく、自分の現在のアティチュードを世の中に対して提示するアイコニックな要素であると思います。全然、パンキッシュな考えとかではないんですけどね。自分なりの気品と力強さを込めた楽曲の強度をビジュアルの力でより高めたい、そんなことを話しながら作っていきました。カンくん、どうですか?
渕上:はい、以下同文です。
TENDRE:あはは(笑)。でもなんか、映画だけじゃなくカンくんと話している中でも昔のこういうファッションがかっこいいよって教えてもらったり、2人が好きないろんなものから常に勉強させてもらっている感じなんですよ。

普段からよく会話をされていて、いろんなことを共有しあっているんですね。
渕上:そうですね。一緒に何かを作るうえで、日常で会話したことがすべてだと思ってます。たとえばですが太朗ちゃんに「濃いコーヒーが飲みたい」って言われたら、どれくらいの濃さなのかを説明してもらわなくてもわかります。打ち合わせもそこまで入念にはしませんね。
木村:会話をするなかで、今どんな気分なのか、どういうことを表現していきたいのか、直接的な言葉がなくてもフィーリングとして共有できていると思っています。それこそ共感覚ではないですが、会話からイメージの像が浮かぶこともありますね。で、現場に入って太朗さんがカメラの前に立って、アウトプットを見て初めて「俺らが表現したかったのってこれだよね」と答え合わせをする感じです。
毎回がセッション。
今日は3種のスタイリングを渕上さんが組み、太朗さんに着ていただきましたが、全体を通したテーマは“ネオ・クラシック”だそうです。LOOK1から撮影順に、どういったスタイリングなのかお聞かせいただけますか?
渕上:LOOK1は、モヘアのカーディガンをメインにトップスは結構渋めな色味で合わせて、おじいちゃんが着ていそうな感じ。トップスのトンマナにあわせてクラシックにまとめるならツータックのチノかスラックスって感じだと思うんですけど、少し変わった素材の現代的なパンツを合わせることで、クラシック一辺倒からは脱却できたかなと。サスペンダーなどの小物でもクラシカルなスタイルを強調しつつも、シャツのボタンの開き方などの細かなところではモダンさをプラスしていますね。
ビットローファーもややチンピラっぽい感じで良いなと。
渕上:基本、ちょっとガラ悪くしたいんですよね(笑)。ワルさの中にこそ品が宿ってる、と個人的に思っています。『ゴッドファーザー』みたいなギャング映画の、スーツを着ていないオフのときの親分がこんな感じのスタイリングで、ワルそうなんだけどすごく品があるんですよね。
TENDRE:あはは、確かに(笑)。

着た感じはいかがでしたか?
TENDRE:カンくんがどういうことを考えてこのスタイリングを組んだのか、今説明してもらったことは全身で合わせてもらったときになんとなく理解できてました。キムはキムでこのスタイリングを見たときに、こういう感じにしよう、と別で考えていたりして。お互いが出したものをその場で打ち返していく、毎回がセッションのような感じですね。
渕上:好きなテイストが似ているからか、意思疎通のスピードも早いんですよね。
なるほど。少し脱線しますが、みなさんに共通している“好きなテイスト”とは?
渕上:ちょっとワルいのとか色気があるのとかが好きだよね。
木村:そうですね。あと“女性的な美しさ”が好きなんじゃないかな。“男性の中に潜在する女性性”は、常に自分たちなりに考えていて。
渕上:男臭さをどこまで減らすか、でもあるよね。
木村:そうそう。そこの減らし加減の塩梅は、時代感を掴もうとしていないと難しいのかなって思います。ここでいう“減らす”は、ヘアメイクでは“増やす”ことだったりするのですが。
TENDRE:うん、すごくよく分かります。
木村:世の中の意識が、都度ここのボーダーラインを定めているように思います。減らしすぎると、いわゆるノージェンダーと呼ばれる雰囲気になっていくし、極端に女性性を強調したようなものになっていく。もちろんそれ自体が悪いというわけではなく、今回のようなエディトリアルの趣旨とは違うのかなって。社会の感覚と向き合いつつ、じゃあ自分たちの落とし所はどこにするのか、僕らにとってはどこがクールなのか。それを足し引きで調整しながら探ってる感じですね。
TENDRE:男性だから、女性だからこうでないといけない、というのはもはやなくて、なってみたい姿やありたいイメージは、日々変わっていくものじゃないですか。自分は男として生まれてきて、ゆえの趣味嗜好は根底にあるとしても、それは何かを制限するものではなく、人っていつだって何にでもなれるんだよなって思うんです。……こんな話、3人でしたことなかったですけど(笑)。
木村:たまにはいいじゃないですか(笑)。
では、LOOK2について。
渕上:このスタイリングは分かりやすくて、ベーシックなセットアップでどう遊ぶかに尽きます。インナーがトレーナーだったら、ちょっとハズしすぎ。タートルネック1枚だと、それはそれで収まりすぎ。そこで、同じ素材のクルーとタートルのセーターを重ねるっていう、普通はやらない、けど自然に見える合わせ方で、ちょっとした違和感を生み出している、ってところですね。
TENDRE:うんうん。
渕上:ぱっと見でバチッとハマっていて、違和感がない。けどよくよく見たらちょっと変だよね、ってくらいが一番気持ち良いんですよね。あとは色のバランス。セットアップが重めのネイビーで、さらに写真が小宮山さんだったので、色で情報量を少しプラスすると良さそうやなと。首元のレイヤードに加えてニットの片袖を捲り上げて、ジャケットの袖口の左右から別々の色を覗かせました。顔周りで手の動きがあった際に2色のセーターがパネルとして現れる、これくらいの足し算がちょうどええかなと。
TENDRE:キムもこのスタイリングに呼応して、メイクで色を入れてくれたんだよね。
木村:ヘアメイクも一般的なかっこいい、かわいいではなく、カンさんが言っていたような、ちょっとしたズレや違和感を表現したくて。たとえばひとつ前のスタイリングから着替えるときに、トップスを脱いだことでヘアが少し崩れたのですが、その感じがすごく良かったから活かしてみました。カンさんが作ったスタイリングのズレに対してヘアはこうやってズラして、そしたらメイクはノーマルだと顔が浮いてきちゃうな、じゃあアイメイクで赤を足して、リップのキワの部分にエッジを入れてみるか……。そんなふうにして、コミさんのハイコントラストな写真と、カンさんのグラフィカルなスタイリングとの調和を狙いました。

ちなみにダブルのセットアップは、割とステージの衣装にも近いのかなって。
TENDRE:ああ、たしかにセットアップのスタイルは、自分にとってのベーシックではありますね。こうやって少しピタッとしたものを着るのはひさしぶりでした。
木村:近頃はもうちょいラフな感じのセットアップが多くなってきてますよね。素材感も含めて。だから、少し新鮮でした。
TENDRE:そうですね。昔は意識して身体のラインに沿ったサイズのものを着ていたけど、ここ数年はゆったりとしたサイズのものや、柔らかな素材のものを自然体で着られるようになってきた感じはあります。

お次はLOOK3です。
渕上:現代にモッズがおったらこんな感じやない? ってイメージで組みました。これは、五角形のレーダーチャートで表すと、すんごい綺麗な形になっていると思いますね(笑)。太朗ちゃんの品や色気、男らしさのバランスが気持ちよくハマったというか。
ヘアは、ツノが生えていますね。
木村:LOOK3は普段の太朗さんのスタイリングと比較してもしっかりお洒落をしている印象があったので、ヘアはちょっとわざとらしくするとより洒落感が出そうだなと思いました。かっちりとしたスタイリングに対してのズラしとして、少し遊んだ感じです。

なんとなくこのムードは太朗さんの最近のテンションにも近いのかな? と。
TENDRE:そうですね。『FANTASY』のMVの文脈でネクタイも締めていて。最近はこういう雰囲気がかっこいいな、と思っていたから、ありがたかったです。どれも素敵でしたが、個人的には、このスタイルが一番しっくりきましたね。
渕上:ほら! 太朗ちゃんはこのスタイリングが一番気にいるんちゃうかなって思ってたんですよ。やっぱり、意思疎通できてますね(笑)。

全体を通して、太朗さんのイメージにマッチしていながら、これまでにない感じも見れたような気がします。
渕上:そうですね。太朗ちゃんのなかには色気や品、男らしさとかいろんなチャンネルがあるけど、それぞれに度数が存在してると思っていて。あくまでTENDREという枠組みを出ることなく、そのチャンネルを調整することで、良い感じにスタイリングの棲み分けをできたかなと思います。
TENDRE:ひたすらにやってきた音楽と比べると、やっぱりファッションには未知な部分が多いんですよね。だからこそ、カンくんとキムの提案や挑戦のひとつひとつが新鮮だし、刺激的に感じられます。つくづく、ミュージシャンのイメージって、自分一人で形成できるものではないんだなと。それぞれかっこいいことを突き詰めている人たちといろんな話をして、いろんなことに気が付いて。そのすべてが自分を形成してくれていることが、すごく嬉しいですね。