Honeymoon,Musician & Illustrator.Case02.Ryosuke Nagaoka & Akira Sorimachi

いつぞやノームコアなんて言葉が生まれ、
“ファッションは自己表現”の時代は終わったなんて言われたこともあった。

それでも服が人を作るのはずっと変わらない事実で、
こと表現を生業にする人は身につけるものも作品の一部と見なされたりもする。

気負わないムードがあるミュージシャン長岡亮介。
自身もそのイラストもトラッドな雰囲気を持つソリマチアキラ。

作るものも世界観も異なる2人にとっての洋服への向き合い方とは。
互いが持つ旧車愛を通してファッションを語る。

Starring_Ryosuke Nagaoka / Akira Sorimachi
Photo_Masahiro Sambe
Hair&Make-up_Go Takakusagi
Text_Ryoko Iino
Edit_Nobuyuki Shigetake

STYLING

INTERVIEW

Buy once, buy well. いいものを一つ、長く使うこと。

お二人は初対面ですよね。今日を迎えるまでにどういうイメージをお相手に持っていましたか?

ソリマチアキラ(以下、ソリマチ):最初はイベントでステージを見させていただいたんですが、長岡さんが作るのは高い次元の音楽というか、ジャンルじゃ括れないかっこよさがある。それでいながら馴染みのある感触っていうのも感じさせてくれて、長岡さんの作品は非常に心地よい音楽だなって。とても美意識の高い方なんだろうなと音楽を聴いていて思っていました。かっこいいですね。

長岡 亮介(以下、長岡):作品もいろんなところで見かけているんだけど、僕の中で強烈に印象に残っているのはソリマチさんご本人。お互いの愛車を雑誌などで取り上げてもらうことがあって、多分同じ一冊に載ったこともあるんです。それでソリマチさんを見て骨の髄まで洒落ている人だなと。身につけているものすべてにこだわりがあって、自身が描くイラストの世界観のままというか。絵の実写版みたいな雰囲気がある人だと思っていました。

お二人の共通点はまず車好きというところ。長岡さんは今日乗ってきた『アミ6』をはじめとしてシトロエンに、ソリマチさんはBMWの3シリーズに乗られていますよね。どういうきっかけで今の愛車を迎えたんですか?

長岡:シトロエンの歴史みたいな本を読んでいて、それに『アミ』が載っていて。これは60年代の大衆車なんですけど、めちゃくちゃかっこいいなって思って。想いをずっと温めていて、30歳を過ぎた頃に買ったんです。それまでは80年代のスズキの『ジムニー』、そのあとにシトロエンの’92年の『BX』というモデル、その次にまた違う80年代の『BX』に乗って、とどんどん年代を遡っています。ソリマチさんは今のBMWが初めての車なんですよね? 初恋の人とずっと一緒にいるみたいな感じですよね。

ソリマチ:20年前に購入したんですが、本当はもっとかっこつけた英国車に乗りたいと思っていたんです。ただ、初心者が乗っても難しいのかなって考えてしまって。それで中古車情報を見ていたところ、手頃な値段で見つけたのがBMWでした。当時16年落ちくらいのモデルで、一歩間違えればダサくなる中途半端な古さだなと思ったんですが、まずは練習用になんて思って買ったら、愛着が湧いてきちゃって。最初の10年間は調子悪かったのだけど、せっかく乗り慣れた頃に乗り換えるのは嫌だなと思って。ならばとことんまで直そうってことで、腕のいい修理屋さんに見てもらったらなかなか壊れない車になって、なおさら手放せなくなってしまったんです。

お二人とも10年以上同じ車を大切にしているってすごいですよね。

長岡:僕はまだまだで、ソリマチさんみたいに一台の車にずっと乗っているのが一番かっこいいんですよ。

ソリマチ:お金に余裕があればもうちょっと何台か乗りたいなとは思うんですけどね(笑)。ただ愛用品なので、長く使えるのであればいつまでも持っていたいというものもある。どんなに古くなってもいつもきちんと磨かれているとか、そういう向き合い方がかっこいいかなと。

長岡:古いものって一度手放したらもう簡単には手に入らないですもんね。こういう、ものと長く付き合う考え方が広まればいいのにって思います。

ソリマチ:車って買い替えるのが当たり前みたいな感じが主流ですもんね。

長岡:靴も服も身の回りのものもそうだと思うんですよね。ちょっと頑張っていいものを買って、それをずっと使うみたいなことってすごく大事だと思う。

ソリマチ:ウェルドレッサーと言われているイギリスのチャールズ皇太子が「いいものを1回だけ買って、それをずっと使う」っていうのを推奨しているんですよ。「Buy once, buy well.」っていう言葉で。その精神が僕は好きですね。皇太子なのに、つぎはぎのある背広を着ているんですよね。靴だって補修していて、でも常にピカピカに磨かれているんです。

長岡:今回の記事の見出しにしてほしいくらいにいい言葉ですね。

そもそも車の楽しさってどこにあるんでしょうか?

ソリマチ:今の車は安全を考慮して作られて、運転も楽になって。そういう意味では旧車は危険かもしれないけど、それを安心して乗れるようなテクニックを持つ。そういう車との付き合い方が楽しみのような気がするんですよね。楽しい道具として付き合いたいっていう。新しい車ってだんだん人間が乗っけてもらう感じになっているじゃないですか。そういうロボット感覚じゃなくてね、自分の道具として使いたいかなっていう。

長岡:僕は車から降りて、振り返って自分の車を見るときが好きなんですよね(笑)。

ソリマチ:わかります(笑)。

長岡:あと洗車しているときも好きですね。ビールを飲みながらやっちゃうんですよ。車に向き合うって、すごく五感に響くことですよね。

ソリマチ:本当ですね。精神的な楽しさと繋がってくっていうのもあるし、あとはファッションで楽しめる部分もある。たとえば『ジャガー』のような英国車にTシャツ、短パンみたいなラフな格好で乗るのもかっこいいけれど、車と服装をセットで考え、こちらも少しドレスアップする、なんていうのもいいですよね。楽しみ方は人それぞれですが、車はコーディネートの要素の一つでもあると思うんです。

長岡:いろんなものに対する美意識が車にも振り分けられているといいですよね。

ソリマチ:ファッションとしてちゃんと使えるものでもあるからね。

長岡:その点僕は車ヲタクなのでダサいかもしれない。あんまりちゃんとした服で乗ってないな……。

ソリマチ:長岡さんの『アミ6』は60年代のフランス映画とかにも出てくるような大衆車でかっこいいですよね。自身のスタイルがあって、そのキャラクターと車がマッチしているというのが大切で、長岡さんは素敵に乗られていると思います。

クラシックについて。

お二人は車以外にも“古き良きもの”を自分の考えを持って選んでいるんだなと感じたのですが、そもそもクラシックなものに対する興味はどう生まれたんですか?

ソリマチ:僕の場合は中学生ぐらいから。友達がビートルズを聴いていて、そのサウンドはすでに一昔前の世代のものだったんだけど、僕も60年代初期のものなんかを聴くと、音響的に魅力を感じちゃって。それでビートルズにすごくのめり込んでいくと、次に彼らの音楽の元になったものが知りたくなるんです。高校に入ると、ビートルズがコピーしたリズムアンドブルースみたいなものにも興味が出てきて、ルーツを探るのが楽しくなっちゃって。そうするとその周辺のファッションも探るようになってね。さらにはちょうど古着ブームが来て、ヴィンテージのアメリカの古着を見て、これは今にない感触の服だなって感動して。そういうことからどんどん古いものを探るのが好きになりました。

長岡:古着は形がかっこよくて好きになったんですか?

ソリマチ:最初はそうですね。あとはやっぱりつくりがいい。トレーナーひとつとってもこんなにしっかりしているものは日本に売っていないって思えたり。でも機械感というよりは職人技というか手仕事を感じたんですよね。そういう温もりのあるものって贅沢な品物になっていくけれど、その贅沢感って今の時代にも非常に大事かなと思います。

長岡:今話を聞きながら思い出したけど、僕も中学校小学校くらいの時に父がビートルズのアルバムを買ってきて、いいなと思った記憶があります。その前から家にあったグループサウンズのカセットもなぜだか好きで聴いていたんです。だからもう生理的に古いものが好きだったんじゃないかなって。ソリマチさんの言うように楽器も古いものの方が手仕事感があっていいんですよ。昔はものを作るには手間がかかることが普通だったから、それが出来上がるものにも出るんですよね。音も色気があるというか、人柄が出るというか。ちょっと欠点もあって、それがまたいい味を出していたりね。一点突破型というか。この時代はこれしかないんだ! みたいな、今のように安定したクオリティと違う何かがある。そういうのって車や洋服にもありそうですよね。

 

ソリマチ:車で言うとそのデザイナーの求めているものが、ちゃんと車の形で現れている時代がありましたよね。このメーカーはこのラインだからこう作れって言われて作ったものじゃなくて、デザイナーの個性がそのまま生かされてるっていうのが今は少なくなってしまって残念。やはりデザイナーの意図がきちんと汲まれている車って非常に魅力的ですよね。

長岡:いろんな人の意見を聞くから、ぼやっとしちゃう。でも昔のものって、こうしたいんだっていう想いを持って、その人のイメージのものを作るからピュアな感じってことですよね。

お二人とも何かを生み出す立場にいるからこそ、余計に作り手の跡が見えることに思い入れがあるんでしょうか。

ソリマチ:作るからなおさらそういうところに目が行くっていうのもありますよね。

長岡:もう簡単なことじゃ興味って湧かないですよね。だからおざなりにやったことは簡単に見抜けます(笑)。また車の話になっちゃうんですけど、僕の乗っているシトロエンって設計が変わっているんです。だけど、目的は人を快適に移動させること。他のメーカーとは全然違う手法でそれを実現しようとしてるんですね。その構造が面白いっていうのが大事だと思って。自分のバンドはドラムとベースとギターの3人組なんですけど、その3人だったら大体こういう音楽になる、みたいな構造はあるんだけど、そうじゃないものをやりたいという気持ちがあるんです。一聴して「他と違うかも」と思われるような感じにしたい。やれているかはわからないけれどね。

ソリマチ:それは長岡さんの音楽を聴いてすごく感じます。「エスニックな感じなのかな?」と聴いていると急にハードロックっぽいようなリフが入ってきたり。すごいなって、ハッと思わせる感覚がすごくいいですよね。

長岡:ありがとうございます。他の人とは似てないものにしたいっていうのがあるんですよ。

洋服を着るということ。

長岡さんは音楽だけでなく、身につけるものを選ぶときも“人と違うもの”が基準と伺いました。

長岡:僕そんな天邪鬼なことばっかり言ってるんですよ(笑)。ただ、ものが好きでそういう気持ちはあるんですけど、洋服はソリマチさんのようなレベルには行けてないというか、特にこだわりはないんです。同じ洋服を長く着ることもあれば、スタイリストさんが選んでくれて気に入ったものを実際に普段も着たり。20代の頃とはまた好みも変わっているだろうけど、今はこういうモードっていう意識的なものはなくて、「なんとなくこれは着たくない」という感覚的な不正解だけは持っている感じです。

ソリマチ:僕の場合は人と違うってとてもいいことなんだけど、だからといってエキセントリックに見せたいかというと、そうではなくて。そんな単純に人と違うように見せるなんてつまらないとは思ってるんです。もしかしたら長岡さんもそういう方なのかなと。

長岡:俺もそれが言いたかったんです(笑)!

ソリマチ:ジャン・コクトーとかデヴィッド・ホックニーとかアンディ・ウォーホールとか、昔のアーティストにはエキセントリックの塊みたいな人たちがいるけれど、彼らは自分自身の服の表現としては全然デザインに走らずに伝統的なスタイルをしている。なのに、この人には何かあるって思わせるものを醸し出していて、そういう人間はかっこいいなと思いますね。一方で、今回の撮影で着た洋服にはデザインが凝っているものが多いと思うんですが、そういうものも実際に着てみると面白いなという感覚があって楽しめました。

そうやって新しく興味を持ったものを自分のスタイルにプラスすることもあるんですか?

ソリマチ:時代の気分を取り入れたいっていう気持ちはいつでも持っています。古いものが好きだから懐古主義の人間です、となってはいけなくて。服も自分の表現なので、作品として額縁にちゃんと似合っていなきゃいけないと思うんです。額縁とは街であったり、自分が置かれている場所。今であれば2022年の東京に自分を置いたときに、そこに似合っていたいというのはあります。

長岡:普段着る服については無頓着なんだけれど、確かにライブの時はソリマチさんのように今日は大阪に行くから、とか考えるかも。街並みとか、いる人の雰囲気とか温度感とかを想像して、シャツにしようかな、もっとカジュアルでいいかなとか。ばりばり柄モノでいこうみたいなときもある。そう思うと、僕も意外とファッションについて考える時もあるのかもしれません。なんだかおしゃれな人って感じがして、ちょっと照れくさいですね(笑)。

長岡さんの装いにはルールの代わりに“不正解”があるとのことですが、ソリマチさんにもそういう考えはありますか?

ソリマチ:僕は流行っているものを進んでは着たくないかな。流行を時計で表現すると、たとえば1時のところにドレススタイル、また別の時間にはカジュアルとかワークスタイルとかがあって、そこに針が流れて流行が回っていくじゃないですか。自分はそこで動かない文字盤になっていたいというか。あれ、気づいたらまた自分の好きなスタイルが流行ってきたのかな、みたいな。そうやって変わらないでいられたらいいなと思います。でもやっぱり時代の空気は必要なので、それは換気よく取り入れるようにはします。

長岡:同じアイテムやスタイルでも何周目かでまた違う解釈で流行っていて、そこを楽しめる部分もありますよね。

ソリマチ:そういう感じはありますよね。前の流行と違うけど、また同じようなものを着ているなとか。流行が一周二周するのを経験する年代になってきたのでなおさら感じます(笑)

その点、長岡さんも流行の時計で言うと追う側ではなくてどちらかというと文字盤側ですよね。

長岡:怪しい短パンビーサン姿のおじちゃんなのに!? きっと愛車があるからスタイルがあると言ってもらえると思うんです。だから今日は車に乗ってきてよかったです(笑)。

2人にとっての新しいスタイル。

今日のスタイリングについて伺いたいと思います。LOOK1ではソリマチさんにミリタリーの、長岡さんにはワントーンのコーディネートに挑戦していただきました。

ソリマチ:軍パンはフランスのM47とかは好きで秋冬にツイードを合わせて穿いたりはするんだけれど、ライダースはほぼ未経験。ただ素材は若い時に着ていたMA-1みたいな感じで馴染みの手触りではあって、すごく新鮮な組み合わせでしたね。ちゃんと似合っていたのかなって少し不安です(笑)。

長岡:いやいや、とてもお似合いでした。でも自分で着るとなると心配になりますよね。僕もナチュラルな色味はよく選ぶけど、こうやってセットアップのように合わせて着るってほとんどなくて。普段は積み上がった洋服の一番上にあるものを着るみたいなズボラなタイプなので、こういう色を計算した組み合わせはちゃんと洋服を着ているという感じがして洒落ているなと思いました。

LOOK2ではお互いにイエローやグリーンのカラーパンツが印象的でした。

ソリマチ:昔からイギリスの伝統的なスタイルには真っ赤だったり、卵の黄身のような色味だったり、鮮やかなパンツを合わせる文化があるので、ネイビーのブレザーにカラーパンツは好きな合わせですね。実はネイビーはここ最近になってよく着るようになったんです。これまではジャケットやスーツはグレーが多かったんだけど、白髪になってからはネイビーとコントラストがついていいなと思って。ボックス型のシェイプも今着たい気分です。基本はヨーロピアンのしっかりと腰に沿ったシェイプが好きなんですが、先日もアメリカンなボックス型のリネンジャケットをオーダーしたところでした。

長岡:僕も色のある服に惹かれることが多くて、本当はカラフルなものばかり着たいんです。ちょうどこの間、古着屋さんで700円くらいのカラーパンツを3、4本色違いで購入しました。特に最近緑が好きで、何気なく洋服を買って帰ると、あ、また緑だって気づいて。だからこのグリーンのパンツは好きですね。

ソリマチ:今日も車の水色との緑の組み合わせが素敵で、いい風景でしたね。

LOOK3で長岡さんが穿いていた柄のパンツもご自身のイメージに合っていました。

長岡:柄物の服も確かに結構持っていますね。でもちょっと趣味が落ち着いたのか、最近はあんまり着ていなかったんです。久しぶりに穿いてみていいなと思いました。それよりもソリマチさんのデニムスタイルがかっこよくて、絵になるなって感動しました。

ソリマチ:いつもはストレートデニムにシャツという合わせなので、フレアは初めて。あのボトムラインだと、短髪よりもロングヘアな気分かなと思っていたんですが、そう言っていただけてありがたいです。

長岡:髪型は若い頃からキープされているんですか?

ソリマチ:基本的には高校の頃から変わってないかもしれないです。

長岡:すごい。当時からきっとおしゃれ番長ですよね。ソリマチさんはスーツをオーダーされるんですよね? 着るものに対してちゃんと向き合って、着て気持ちが良くて、見た目もいいものを冷静に選ぶその姿勢に憧れるんです。でも洋服って自分の身体を通す距離の近いものだからこそ、これでいいのかなって迷ってしまって、真剣に考えることに苦手意識があって。

ソリマチ:長岡さんの自然な感じはサマになっていてかっこいいですけどね。

最後に、今回の撮影ではソリマチさんに長岡さんのイラストを描いていただきましたがいかがでしたか?

ソリマチ:普段は空想で人物を描くので、こういうスケッチは新しい経験。緊張しました(笑)。

長岡:僕もイラストにしてもらうことなんてないので緊張しましたよ。でも、嬉しかったです。

ソリマチアキラ(L)1966年生まれ。イラストレーター。広告・雑誌・書籍の装幀などを手掛ける。ファッションイラストレーションをはじめ、幅広い画風で制作。ファッションやジャズ、お酒などさまざまな分野に精通する。
HP:https://www.tis-home.com/akira-sorimachi
Instagram:@sorimachiakira

長岡亮介(R)1978年生まれ。ペトロールズのギターとボーカル。9月2日の神奈川 KT Zepp Yokohamaでのライブを皮切りとした全国8都市でのツアー“eject”を開催予定。また、サポートギタリストとしての活動の他、楽曲提供、プロデュースなど多岐に渡り活躍。パーソナリティを務めるラジオ『CITROËN FOURGONNETTE』(J-WAVE)も放送中。
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