Honeymoon,Musician & Stylist.Case01.hama_okamoto(OKAMOTO’S)&TEPPEI

セックス・ピストルズが1970年代のパンクファッションを、
RUN D.M.Cが1980年代のヒップホップファッションを牽引したように、
音楽とファッションには兼ねてより相関関係があるらしい。

そこには歴史的文脈や地域的文脈といったさまざまな語り草があり、
さらには専門家風情が提唱するルールやマナーなんかもある。

なにやら小難しい話になりそうだが、
こと現代においてはあまり関係のない話。

時代の移ろいにあわせて人々にとってのファッションのあり​​方が変わり、
ミュージシャンにとってのファッションのあり方も変わった。

ハマ・オカモトとTEPPEI、
ミュージシャンとスタイリストの蜜月に見る、
現代の音を鳴らす、現代のミュージシャンの装いのあり方。

Starring_hama_okamoto(OKAMOTO’S)
Styling&Direction_TEPPEI
Photo_Masaya Tanaka(TRON Management)
Hair&Make-up_Taro Yoshida(W.Inc)
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake

STYLING

INTERVIEW

聞くところによると、今日はTEPPEIさんとの3日連続撮影の締めくくりなんだそうですね。

ハマ・オカモト(以下、ハマ):そうですね。TEPPEIさんとは日頃から1ヶ月空くことがないくらい頻繁にご一緒させていただいてます。

そもそものきっかけというか、始まりとしては?

ハマ:10年近く前ですかね。とある女性誌でOKAMOTO'Sとしての連載企画をやらせていただいていて、その号ごとのテーマに沿ってスタイリストさんにスタイリングをしていただく、という座組みだったのですが、バンドとしてもいろんな人と知り合いたい時期だったので、全乗っかりさせていただいて(笑)、いろんなスタイリストさんに声をかけさせてもらってました。その連載のとある回でTEPPEIさんにお声がけさせていただいたわけですが、あれは、(オカモト)レイジ経由ってことになるんですかね?

TEPPEI:そうです。もともとレイジさんとぼくが知り合っていて。あれがOKAMOTO’SとTEPPEIの最初の接点ということになりますね。もう10年になるんですか。こういう機会なので、ぼく自身が気になっていたこともお聞きしたいのですが、多数のスタイリストさんにお会いしてスタイリングをされる立場として、ぼくのどういう部分にしっくりきていただいたんですか?

ハマ:坊主だったから、ですかね。

TEPPEI:そのときは坊主じゃなかったですよ(笑)。

ハマ:(笑)。たらればの話になりますが、ぼくがスタイリストとしての人生を歩むとしたらこういう人になりたいな、とTEPPEIさんのお仕事を見ていて感じたんですよね。というのも、ぼくは自分がやっていることに異常な執着があると自覚していて、TEPPEIさんにもそういう執着を感じたときがあったんです。もちろん、いい意味ですよ。

TEPPEI:なるほど。執着、ですか。ちなみにどのときですか?

ハマ:ものすごい靴下履き替えさせられたときですね。

TEPPEI:あはは(笑)。ありましたね。

ハマ:信念むき出しだなって。靴下の件はテレビのお仕事ですが、オンステージやテレビ出演の際にスタイリストさんにしていただけることって、本番に送り出してもらうところまでになってしまうんです。だからこそ、座ったときに見える靴下の分量とか、その靴下が下がってこないかとか、あらゆる場面を想定してくださるのはすごく納得ができたというか。「そうそう、俺がスタイリストでもこうする」と思ったんですよね(笑)。

ライブ、テレビ、雑誌とさまざまなメディアに出られているハマさんのスタイリングを手がける上で、それぞれどういった部分に気を配っているのかは気になっていました。

TEPPEI:もちろん、技術的なところではいろいろとありますよ。ただ、あるときから「こういうときはこうする」といったセオリーは自分の中に設けなくなりました。それは、およそ10年ほどのお付き合いの中で、ハマさんやメンバーとの最小限の会話、たとえば「今度の撮影、こういう感じにしたいんですよ」って会話を限られた時間だとしてもすることで、お互いに納得できるものを端的に明快に世に打ち出せるようになった自負があるからです。OKAMOTO’Sとして、ハマ・オカモトとしてどういう信条があり、どういう見え方が望ましいのかを会話から掬い上げて洋服で力添えをする、というシンプルな考え方なんですけどね。

ハマ:やっぱり10年も一緒にやらせてもらっていると、ほぼ“教育”なんだなって思います。TEPPEIさんのいない現場でも、生き霊みたいにTEPPEIさんの存在を感じてしまうことがありますから(笑)。

TEPPEI:ところで、メディアを通してぼくらのことをご存知の上でこの企画をオーダーしていただいたと思うんですけど、ぼくらがやっていることって、客観的にどのように見えているんですか?

ハマ:それはぼくも気になっていました。

パッケージで見せるのがとても巧妙だと思っていました。OKAMOTO’Sという集合体として、ハマ・オカモトという個人として、というのが独立せず綺麗に連動しているというか。

ハマ:あぁ、そう見えていてほしいなと思っていましたし、実際そう言っていただけると嬉しいですね。我々はファッションモデルの方々のように洋服を着ることを生業としていないので、ミュージシャンとして洋服を着てメディアに出る際に何を大事にしているかというと、趣味嗜好や生活、人間性みたいなものがしっかりビジュアルに映し出されているかなんです。TEPPEIさんはそういったぼくらの大事にしているパーソナルな部分を一番よく捉えてくれているから、ぼくらが望んでいる見え方と相違が無く、みなさんに届いているのかなって思います。

TEPPEI:OKAMOTO’Sのみなさんに対して言えることですが、4人とも、芯から“音楽の人”なんです。ハマさんがご自身のことを「モデルではない」と仰ったのは謙遜でもなんでもないんですよね。だから洋服を着て、カメラの前に立って、モデルのような素振りを求められても「知らんやん、そんなのできひんやん」って、常々思っているんだろうなって。

ハマ:たまにTEPPEIさんに怒られるんです。「ハマさん、もうちょっとがんばりましょう」って。本番中に(笑)。

今回のシューティングについてのお話にシフトしていこうと思います。TEPPEIさんの衣装選定にも立ち合わせていただいたのですが、1着ずつが独立してハンギングされた状態を見ても「服だ」としか思わなかったものの、ハンガーにレイヤードして見せていただいたときに「あ、ハマ・オカモトだ」と感じました。

ハマ:あはは(笑)。

TEPPEI:あ、なんとなくわかっていただいたんですね(笑)。

ハマ:やっぱり、そういうのはあるんでしょうね。TEPPEIさんにしていただいたスタイリングをマネキンに着させて飾っておいたら「ほぉー!」とか言われるんだろうなって(笑)。自分では「俺っぽいな」とはあまり感じたことがなくていつも新鮮だったりするので、その話は興味深いです。「うん、やっぱりそうか」と言う気持ちもありつつ、嬉しくはなりますね。

4種のスタイリングで、それぞれどういった棲み分けをされたんですか?

TEPPEI:まず、全体を通してそれぞれのスタイリングのテンションは明確に区別していて、その中でどうやってハマさんらしさとTEPPEIらしさを出すか、というところをテーマにしています。LOOK1から解説をすると、紺ブレと白のベイカーパンツだけを見るとエディフィスらしい、フレンチアイビーの文脈をなぞったミックススタイル、といった落とし所になるのですが、そこからは少し崩していて。柄シャツまではセオリーかもしれませんが、ミドルにポロスポーツのマドラスチェックのブルゾンを挟むことでガチャっとさせて、一筋縄にはしていないという、ややストレンジなアメトラスタイルですね。

ハマ:ポロスポーツのブルゾンを着て「あぁ、良いですね」と思っていたら、さらにその上に羽織るジャケットを渡されたので「え、もう1枚着るんだ?」とびっくりしました(笑)。変化球ではありますが、TEPPEIさんらしい遊び心を感じましたね。

TEPPEI:ハマさんはきっと自らこの格好はしないのだけど、もしもするとしたら、こういう感じに着こなすんだろうなという、長年の経験による刷り込みが自分の中にありました。ともすればスタイリストが無茶をしてトリッキーな着せ方をしている、という見え方になってしまいそうな危ういバランスがありつつも、ハマさんの哲学や価値観を自分に憑依させて、この種のファッションスタイリングを飲み込もうとしたらこうなるんだろうな、と。

LOOK2はまた方向性がかなり異なります。

ハマ:これは……クロシェ編みって言うんでしたっけ? 初めて触れたアイテムですが、自分としてはこれを羽織らなければいつも通りの服装という感じで、靴下にサンダル、イージーパンツに柄シャツ、みたいな。

TEPPEI:まさにそういうイメージで、ハマさんが夏に現場に来られる際の普段着を思い浮かべ、各パーツの主張を1.5倍ほど強くしました。オーセンティックやヘリテージに対して背中を向けた、現代的解釈のカジュアルスタイルというところですね。

ハマ:なるほど。確かにスタイルとしては馴染みがありますが、この空気感は自分の家のクローゼットにはありませんね。日頃の自分の延長線上にプロの手を加えてもらった、という感覚がありますし、着ていて楽しかったです。着心地も良かったですね。

LOOK3は、なんとなくハマさんらしいイメージがあります。

TEPPEI:どことなく50'sや60'sを彷彿とさせるスタイルになりましたね。サテンのスタジャンやウォームアップブルゾンに代表されるヴィンテージライクなジャンパーに半袖のニットポロなどを着丈短く合わせて、ボトムスはちょっとフレア気味のスラックスやデニム、という具合に、リアルなヴィンテージアイテムだけでも組成できる、昨今の気分にもマッチしたバランス感覚を意識しました。最近トライしている、カジュアルとドレスがミックスしたハマさんのチャンネルにも通ずるものがあって、個人的には好きなスタイルですね。

ハマ:スタジャンにフレアパンツのスタイルはこれまでスタイリングをしていただいた中でも方程式としてはあったので、自分としても違和感がなく馴染みました。しかしこの、中に着ているピンクのテロテロのシャツ、あえて“エッチなシャツ”と呼ばせてもらいますが、それとその上のピンクの……これはなんて呼ばれるアイテムなんですかね?

TEPPEI:ニットスキッパー、ですかね。

ハマ:ニットスキッパー。着させてもらっているときにもお伝えしましたが、ぼく個人としては1000回生まれ変わったとしても、こういう風に合わせる発想には至らないかもしれません。しかしながら、見事にハマっていますね。

TEPPEI:通常であれば一番インにこのテロテロのシャツを合わせることはないと思うんですよね。これがポロシャツだとしたら首元まで迫ってきているので、空間も疑問も生まれないのですが、スキッパーは首元が開いてますから、この空間を活かしたいな、と。そこでライブ的な発想で、あえて不自然なパーツとしてこのシャツを配置してみたのですが、結果として色と素材感の奇妙さが面白い方向に転びましたね。

撮影中にTEPPEIさんがかなり入念に袖捲りをしていたのが印象に残っています。

ハマ:これはぼくのクセなんですよね。楽器を演奏する際に特に右手の袖がベースに干渉することがあって。バチっとスタイリングは組んでいただきつつ、こっち(右)だけスタイリングの範疇で捲ってもらったりとかは長らく日頃からしているので、もはや、ぼくのクセというよりかはTEPPEIさんのクセが移った、みたいなところもあるかもしれませんね。

TEPPEI:袖を捲った時にハマさんが「あぁ、なるほど!」とおっしゃったんですけど、袖を捲って「なるほど!」とおっしゃる人には会ったことないですね(笑)。

興味深いお話です。最後に、LOOK4です。

TEPPEI:これもどちらかといえば現代的なスタイルですが、サイズ感や合わせ方で現代っぽく見えてはいる、というところで、超現代的、2000年代のスタイル、ではないですね。

ハマ:ベースはオーセンティックなアイテムで、いずれもファッションの根本にあるものですよね?

TEPPEI:そうですね。30代のぼくらよりもう少し上の世代の人たちが若い頃に好んでいたような合わせ方で、90年代のベーシックなスタイルではあるのですが、本来ならもう少しシャツもパンツもタイト〜レギュラーフィットで、スウェードのブーツも合わせていないかもしれない。つまり、ここ30年くらいの王道のトラディショナルカジュアルをカスタマイズしたスタイリングというところですね。

装いとしてはシンプルに見えますが、首回りのネクタイや襟の処理であったり、シャツならではの小技が効いています。

TEPPEI:ハマさんの男性像、みたいなところを、シンプルだからこそ顕著に炙り出せたシャツルック、と個人的には思っています。トーマスメイソンの上質な生地を使ったブルーのストライプシャツって、やっぱり男として粋に感じるじゃないですか。

はい。わかります。

TEPPEI:ハマさんの日常的なシーンに想像を巡らしてみても、今日はTシャツではなくシャツを着るぞ、という朝の一歩って、Tシャツを着るときのメンタルとは少し異なるとぼくは思っていて。

ハマ:どこに向かうか、誰と会うか、ですよね。

TEPPEI:そうです。そういった動機で着るシャツって、その人の洒落感が如実に出ると思うんですよね。ボタンを開けるのか、タイを締めるのか、締めるならどんなタイにするのか、というように。

ジュエリーの使い方もすごく粋だと思いました。

TEPPEI:ハマさんの心の中に本質的にある強さと繊細さを、金属的な質感で表現したかったんです。

改めて詳細にスタイリングのお話をしていただきましたが、全体を通していかがでしたか?

TEPPEI:今までと比べて特に稀有に思ったのが、どのスタイリングもカッコよくて、良い服を着ているのは前提ですが、何を着ていて、どんなスタイリングをしている、のプラスアルファとしてぼくがハマさんに対してずっと感じていた、ファッション的観念の中での良いオーラ、ムード、知性やエレガンス、男らしさを洋服を通して、しかもこのボリューム感で伝えることができた、という点です。今回はそのようなプラットフォームをしっかりご用意して頂けた気がしていて、スタイリストとしてとてもやりがいを感じましたね。

ハマ:ぼくとしても全然想像していなかったような仕上がりでしたし、面白い撮影でした。TEPPEIさんとこれまでやってきたことも、TEPPEIさんの近頃の気分も如実に出ていたように思います。それこそ、知り合ったばかりの頃は、古着っぽいアイテムやスタイルを取り扱うことは少なかったですよね?

TEPPEI:確かに、あまりなかったですね。

ハマ:そういったご自身のムードも存分にスタイリングに出ている感じがして、勝手にテンションが上がりました。あと、ビジュアルもね。OKAMOTO'Sのアーティスト写真と地続きな感じにしていただいて。フォトグラファーの田中さんも、ヘアメイクの太郎さんも、なんならスタジオまで同じで(笑)。

TEPPEI:このルックが世に出たとき、普段から見てくれている方々がどう感じるのかは気になりますよね。最初のルックは一番エディトリアル的というか、とても似合っているけど主体的には選んでなさそうで、衣装感があるな、とか。カジュアルルックの2つはハマさんらしいところはあるので、既視感とまではいかないけど、ハマさんの好みの範疇でもあり、何かのシーンのハマさん感があるよな、とか。全般的に、装いとして既視感はないけど、ハマ・オカモトとはなんたるか、というのは感じることができる4ルックになったかな。

ハマ:そうですね。僕自身がハッとさせられたように、これを見た人もハッとしてくれたら嬉しいなって思います。

ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO’Sのメンバー。ベーシストとして様々なミュージシャンのサポートも行い、2013年に日本人ベーシスト初の米国フェンダー社とエンドースメント契約を結ぶ。ラジオやテレビ・雑誌など各方面でレギュラー番組を担当し、あらゆるフィールドで活躍する。2020年5月には自身のムック本「2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?」を発売。2021年9月に9枚目のフルアルバム「KNO WHERE」」をリリースし、全国16か所18公演をまわるライブハウスツアー「OKAMOTO'S LIVE TOUR 2021"KNO WHERE"」を開催する。2022年、3月より「出張!オカモトーク Acoustic/Talk Tour 2022」を開催中。TOKYO FM『THE TRAD』のパーソナリティを担当中。音楽ナタリーで細野晴臣とnever young beachの安部勇磨との鼎談連載「細野ゼミ」開講中。レギュラー番組『ハマスカ放送部』(テレビ朝日)、『プレスク』(BSフジ)放送中。
Label:Sony Music Labels
HP / Instagram:@okamotos_official / Twitter / Facebook
Instagram:@hama_okamoto

TEPPEI1983年生まれ。都内の専門学校スタイリスト学科に入学。卒業後2年間の古着屋勤務を経て、スタイリストとしてのキャリアをスタートした。現在は、スタイリストとして数々のアーティストイメージやブランドビジュアルのディレクションを手掛けており、ドバイ万博2020における日本館公式ユニフォームのビジュアルスタイリングをはじめ、特に国内のメンズファッションシーンにおいて代表的な作品発表を続けている。

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