虎ノ門アート通信 第1回:
葛飾北斎『PLAY w/ HOKUSAI』

虎ノ門にオープンした〈SELECT by BAYCREW'S〉には、BAYCREW'Sが培ってきた経験と視点、遊び心と挑戦が、これでもかと凝縮されている。その一例として顕著なのが〈art cruise gallery by Baycrew’s/アートクルーズギャラリーバイベイクルーズ〉、そう、初のアート業態です。衣食住を通じて日本の文化を牽引してきた、BAYCREW'Sにとっての“アート観”はどういったものなのか。現在開催されている企画展の、主観混じりのレポートを通して紐解いていく。第1回は、こけら落としの葛飾北斎『PLAY w/ HOKUSAI』展に潜入。

Photo_Daiki Endo
Text&Edit_Nobuyuki Shigetake

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各種メディアの先祖であり、江戸のトレンド。

〈art cruise gallery by Baycrew’s(以下、art cruise gallery)〉では、葛飾北斎の名作『北斎漫画』にフォーカスした『PLAY w/ HOKUSAI』を4月14日(日)までの期間で開催中。まずは『北斎漫画』の概要から。

『富嶽三十六景』(『大波』や『赤富士』あたりが有名)が日本のパスポートの挿絵に使われたり、海外の画家にもフォロワーがたくさんいたり。むしろ日本よりも海外ウケがとても良い。おそらく世界で一番有名であろう日本のアーティスト。浮世絵をメインに、生涯で3万点もの作品を遺したと言われている江戸後期の画狂老人。そんな北斎の代表作のひとつが『北斎漫画』だ。

「漫画」といってもストーリーがあるわけではなく、あくまで「絵手本」。『北斎漫画』はもともと、全国に点在していた、増えすぎてしまった北斎の弟子たちに手早く北斎の技術を継承するために作られた。しかし、北斎の高すぎる技術力や高すぎる独創性を、商魂たくましい江戸の商人たちが見逃すはずがなく……結果的にクライアントワークのような座組で作られた全15篇の『北斎漫画』は、版画であるため、量産が可能だった。それもあってか、現代で言うところのカタログやファッション誌、ライフスタイル誌のような存在となり、大名から庶民まで、幅広い人たちに親しまれることに。江戸時代から令和の現代に至るまでその人気は衰えることなく、むしろ増すばかりの歴史的なロングセラー作品となった。

「絵手本」から情報の発信源、そして流行に。言い換えるとモノから現象へと変遷していった『北斎漫画』は、テレビや雑誌がなかった江戸時代に誕生した、各種情報メディアの先祖と言うこともできる。事実、宴席の場に『北斎漫画』を持ち込んで、複数人で眺めることもあったそう。「この着物の着こなし、かっこいいよね」なんて話していたのかな? と微笑ましい妄想をしてしまう。

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(ほぼ)全部買えます。

このアートたちがすべて購入可能であることも〈art cruise gallery〉の大きな特徴のひとつだ。作品提供をしてくれたのは、東京を代表する東洋古美術の専門商・浦上蒼穹堂。代表の浦上満さんが所有するおびただしい量のコレクションから、厳選された80作品が展示されている。もちろんすべて鑑定済み。各作品にはそれぞれ、浦上蒼穹堂によるエンボスプリントと、シリアルナンバーも入る。つまり、贋作や粗悪品の心配はゼロということだ。

アートとともに暮らすということ。「本物と生活することでしか磨かれない審美眼や、得られない充実感がある」とは浦上さんの弁。生活様式が変化し、住空間を重要視する人々が増えた今、自宅にアートを購入し、愛でる人も少しずつ増えてきている。また、ヴィンテージの家具や洋服に置き換えてみると分かりやすいが、年々価格が高騰傾向にあるのはアートも同様だ。

今月はお仕事頑張ったから。誕生日だから。何でも良いので何かの記念に。それくらいの軽やかな動機で買ってみてもいいのかもしれない。自宅に飾るもよし、お店に置くもよし、友人や家族に贈るもよし。ちなみにお値段は税込33万円から。はじめてのアートにもぴったりな価格だ。各作品がどういったものなのか? 詳細については、ギャラリー内のスタッフまで。

※本展に限り、ガラスケースに入れられた『北斎漫画』の原本は見本品となり、購入不可です。

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「アート」はぜんぜん難しくない。

そもそも「アート」ってなんだろう?アーティストが作ったもの以外は、アートではないのだろうか?アートと呼ばれるものとそうでないものの境界線はどこにあるのだろう?

アートを定義付けることはこの令和になっても引き続き難儀だ。小難しくて、曖昧で、敷居が高い。そんなアートのイメージに対して、疑問符を投げかけることを目的に〈art cruise gallery〉は設立された。美しいものはもっと普通に身の回りにあるべきだし、拓かれたものであるべき。そういった考えに基づき、人々の生活の中にアートを送り出していく役割をこのギャラリーが担っていく。

「アート」の定義の話に戻る。当ギャラリーのクリエイティブディレクターを務める、グラフィックデザイナーのおおうちおさむさんは「衣食住を豊かにするものは、すべてアートとしての性質を持っている」と話してくれた(インタビュー記事参照)。「アート」の本質は、それを所有する人、眺める人の心を波立たせることにある。

『北斎漫画』だって最初から「アート」だったわけではなく、あくまで「絵手本」。それが200年の時を経て「アート」になった。今朝ミネラルウォーターを飲んだグラスだって、この記事を見ているスマートフォンだって、いつかは「アート」になるのかもしれない。そう考えるとなんだか素敵だし、もっと肩の力を抜いてアートと向き合ってみよう、と思えてきませんか?

INFORMATION

『PLAY w/ HOKUSAI』

会期:2024年2月29日(木)〜2024年4月21日(日)

場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F SELECT by BAYCREW’S内

観覧料:無料

今月の「となりのアート」

〈art cruise gallery〉を擁する〈SELECT by BAYCREW’S〉にはさまざまなコンセプトのショップがあり、ここでしか買えないモノなんかも多数あります。そのなかから「これはアートだ!」と思ったモノをご紹介。ギャラリーに足を運び、“アート脳”のままお買い物なんて、財布の紐が緩んじゃいそうだ! いずれも販売は〈SELECT by BAYCREW’S〉の店頭のみ。売り切れ御免。 気になったなら、いますぐ虎ノ門へGO。

1.  60〜70年代のデンマーク製で
チーク素材のフィギュア

大きい順に17,600円、7,700円、7,700円

2Fの〈THE STAND fool so good(s)〉からは、ノギンス社製ヴィンテージのチークフィギュアをピックアップ。バイキング(海賊)をモチーフにしているわりにはあんまり悪い顔はしておらず、むしろ良いヤツそうで、愛らしい。当時はお土産屋さんなんかで売っていたらしく、たしかになんとなく工芸品や民藝品っぽさもある。こういうのは1体だけだとちょっとさびしそうに見えるから、たくさん並べて飾りたい。

2.  〈KOKON〉の盆栽

画像1枚目から19,800円(津山桧)、19,800円(長寿梅)、29,700円(黒松)

3Fの〈;TITLE〉で現在開催中の、「盆栽とそのまわり」 に特化したブランド〈KOKON〉によるポップアップ『春は浮雲』も、アート好きなら思わず立ち止まってしまいそうな内容だ。美しく漂う雲を連想させる、なめらかなラインを描いた器は陶芸作家の坂爪康太郎によるもの。堅苦しいイメージがあった盆栽だったけれど、こうもモダンに昇華されるとトライしてみたい気持ちになるし、デスクやサイドボードに気軽に置けるちょこんとしたサイズも嬉しい。ポップアップは4月15日(月)まで。

3.  ピンクの玉

これは売り物ではありません。

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