ACMEと花井祐介を結ぶ共通点は1960’sアメリカンカルチャー
ACMEと花井祐介を結ぶ共通点は
1960’sアメリカンカルチャー
海を目の前にひっそりと佇むこのアトリエは、サーフボードやフィギュア、レコードなど愛着に溢れ、まさに花井さんの「好き」が詰まっている秘密基地のような空間ですね。
横浜に住んでいた高校の頃からサーフィンしに来ていた逗子に、いつか住みたいと思っていたんです。このアトリエを購入したのは2016年。もともとは漁師さんの物置小屋だったようです。歩いてすぐの場所に、お気に入りのサーフポイントがあったのが決め手でした。築年数が100年近くあるような物件だったので、友達にも手伝ってもらいながら少しずつ改装を重ねて、1年以上かけて今のようなアトリエに仕上げていきました。床材や扉は、ベイクルーズの店舗で使用していたものを譲ってもらったものなんですよ。ACMEのローボードもしっくり馴染んでいるでしょ?好きな世界観が似ているからだと思います。
ACMEも花井さんも、ルーツがアメリカという共通点がありますね。
そうですね。僕の絵のベースは、昔から好きだった1950-60年代のアメリカのサーフ雑誌の挿絵とかポスターとか。アメリカのサーフカルチャーにたくさん影響を受けていました。
花井さんが絵を始めるきっかけは何だったのですか?
高校生の時、友達がバイトしていたカフェに入り浸っていたんです。そこの店長がサーファーだったので、よく海に連れて行ってくれました。ある時、その店長が隣町で新しくバーを始めるから手伝うことになり、みんなで何もない土地に穴掘りからDIYしてお店を作ったんです。「看板は誰が描くか?」という話になった時、絵が一番得意なのが僕だった。そこで看板やメニューのイラストを描いたのが始まりですね。と言っても、小さい頃ふざけて先生の似顔絵を描いて、友達と茶化しあっていたようなレベルでした(笑)。
その「The Road and The Sky(通称ロースカ)」というバーはよくライブも開催していて、ゲストに呼んだミュージシャンのCDジャケットやライブポスターも描くようになって。バーテンのバイトをしながら、そんな風に少しずつ絵のオファーをもらうようになりました。絵をもっと描きたいなと思って、ロースカで5年くらい働いた後、サンフランシスコのアートスクールに通い始めました。
なぜサンフランシスコに?
21歳のとき、叔父が働いていたメキシコまでバックパッカーしたことがありました。グレイハウンドの長距離バスに乗って、ひと月かけてアメリカを周りました。それがとても楽しかった。中でも特にサンフランシスコは住んでみたいと思うエリアでした。そこで渡米して、アートカレッジに1年通いました。海から2ブロックのエリアに住んでいたので、サーフィンもたくさん楽しみましたよ。クリス・ヨハンソンやバリー・マッギーの絵が街中にあったりして、好きだった雑誌「relax」の世界観をそのまま見て感じられて、刺激をもらいましたね。
絵のキャリアが本格的に動き出すグリーンルームフェスは
ACMEとの出会いの場でもあった
絵のキャリアが本格的に動き出す
グリーンルームフェスは
ACMEとの出会いの場でもあった
帰国後は転々と職を変えながら、趣味で絵を描いたり、公募に応募したり。ユニクロのクリエイティブアワードを獲って、Tシャツに採用されたこともありました。それがきっかけで雑誌の取材が増えて、人目につくようになりましたね。
帰国した翌年の2005年、グリーンルーム フェスティバルが初開催されるということで、ロースカがフードを出店することになったんです。当時、グリーンルームはアメリカで行われていたムーンシャイン・フェスティバルとの共同開催だった。その時もロースカの看板やメニューを描いたら、たまたま来日していたムーンシャインの主催者でラグナ・ビーチ(カリフォルニア)にあるサーフギャラリーのオーナーだった人に声をかけてもらえたんです。「君の絵は面白いから、ギャラリーに置きたいので絵をくれ」と言われて。その時にアメリカのアーティストと仲良くなって絵を交換しました。自分の絵をアメリカで売ってもらえるようになり、グリーンルームの第2回では、そのサーフギャラリーの一員として展示に参加しました。
ACMEとの出会いも2011年のグリーンルームでしたね。
そうでしたね。ACMEがアートスペースにベンチを提供していて、僕もアーティストとしてその場に参加していました。何か一緒にモノづくりできないかという話になって、翌年にACMEのヴィンテージテーブルやベンチに手描きでアートを入れました。懐かしいなあ。
ACMEにとって、アーティストとのコラボレーションは花井さんが初めてでした。
ハンドメイドの犬と猫のぬいぐるみを作りましたよね。当時、Ren & Stimpyというアメリカのアニメが好きで。トムとジェリーみたいなストーリーなんですけど、ここではオリジナルとあえて逆にキャラクター設定したんですよね。間抜けな犬と意地悪な猫を1個1万円位で10体作ったけど、高くて全然売れなかった!(笑)。でもかなり思い入れがあります。実はあのぬいぐるみのボディは、妻が一つずつ縫ったもの。その顔に、僕がシルクスクリーンでプリントしました。何事もできる限りDIYしたいんです。
以来、花井さんとは毎年のように一緒に取り組みが続いています。
思い出に残っているコラボレーションはありますか?
自由が丘店では、2013年のオープンにステンシルのワークショップを開催したり、ポスターも作ったりしましたね。自由が丘店は、オープン前に描いたイタズラ描きも店内にあります。ACMEチームとは一緒にアメリカに取材に行ったこともあったな。一番の思い出はさっきのぬいぐるみだけど、2017年に作った鳩時計も面白かった。これも一つずつストーリーを考えて手描きで作ったから、高くて売れなかったけど(笑)。
これまでのコラボレーションのアーカイブ。
花井さんのインスタグラムより。
下の写真は2011年に作った
ハンドメイドのぬいぐるみの製作過程。
「忘れられない初回コラボの“手縫いのぬいぐるみ”をもう一度作ろう」
「忘れられない初回コラボの
“手縫いのぬいぐるみ”をもう一度作ろう」
40周年記念アイテムも、ぬいぐるみと時計がラインナップされています。
過去のアーカイブを振り返ってみて、「あの時売れなかったぬいぐるみをもう一回作りたいね」という話になって。家で飼っている猫に着想して、エディションナンバー入りのBOXで40点、BOXなしで60点作りました。もう妻が縫ってはいないですけど(笑)。
STUFFED CAT with BOX(限定40点)¥33,000 (inc.tax)
STUFFED CAT(限定60点)¥16,500 (inc.tax)
WALL CLOCK(限定200点)¥23,100 (inc.tax)
BEER MUG(限定100点)¥22,000 (inc.tax)
時計はこれで第3弾ですね。初回は子ども部屋にマッチするデザイン、2回目は鳩時計、そして今回はACMEの原点に立ち返ってヴィンテージっぽいものを作りました。ACMEのイメージに一番近い、オーセンティックなデザインが気に入っています。
思い出してみるとマグカップも、2012年の初期コラボでFire-Kingと一緒に作りましたよね。今回は波佐見焼で、アメリカンヴィンテージの大きいジョッキをイメージしてこの大きさに仕上げています。US2パイント分のビールが入る容量なんだとか。僕は筆入れ用に使っています。
アトリエにもコラボレーションアイテムがもうしっくりと馴染んでいますね。逗子の山側にあるご自宅のインテリアや内装も世界観が似ているんですか?
そうですね。アトリエができるまでは、趣味のフィギュアや本、レコードなどを全部自宅に置いていました。2014年に子どもが産まれていよいよ手狭になり、アトリエを構えてほぼ移しましたが、まだ自宅にも残っていますよ(笑)。自宅では家族の時間を大切にしていますが、仕事スペースもありますし、オン・オフはあまり明確に線引きしていないですね。いい波が来れば、仕事中でもサーフィンに出ますし。
自宅には、ACMEの椅子とキャビネットがあります。鷹番店の時に買ったもので、今も愛用しています。あと最近、リビングに置いているハンス・J・ウェグナーのソファのクッションファブリックをACMEで張り替えてもらったんです。猫の爪の引っ掻きに強い合皮素材がとても良くて、気に入っています。
花井さんの作品に出てくるキャラクターは笑っていなくて、ちょっと背中が丸まっている姿が印象的ですよね。シニカルで思わずクスっと笑ってしまう可愛らしさも感じます。
普段生活していて、ずっと笑顔でいられることってないじゃないですか。“ハッピーの押し売り”なアートが苦手なんです。悲喜交交をネタにして友達とふざけ合いながら生活しているようなやつなんで(笑)。それがそのまま絵にも表れているんじゃないかな。ハッピーな絵を求められると、ストレスを感じることもありました。今は作品の販売が中心になり、押し売りニーズから解放されてだいぶ楽になりました。
世の中に美しいものを増やしたい。
アーティストってそういうことだと思う。
ただ消費されるためだけにアートを描くのは嫌ですね。4月にUTでTシャツをデザインした時も、ただ大量生産されて大量消費されるのは嫌だと思ったんです。リサイクル素材を混ぜたコットンでTシャツを作り、ゴミ拾いのイベントをローンチと一緒に開催しました。ローカルではビーチクリーンのヴィジュアルを描いたり、景観保護の運動に賛同したり。地元のつながりも大切にしています。アーティストってみんな、何かメッセージを伝えたくてモノづくりしている。描く意味がないといけないと思っています。
今年もカリフォルニアの公立小学校に赴き、アートプログラムに参加した。
花井さんのインスタグラムより。
毎年、アメリカの小学校でボランティア活動を行っています。カリフォルニアのコンプトンの隣町にある、いわゆる治安が悪いエリアで。アメリカの公立小学校は今、音楽や美術といったアートの科目が削られているんです。貧しい地域だと芸術に触れる機会が少なく、自分が伸ばせる才能があるかもしれないのにそこに気付けず、ギャングやホームレスになることも多い。小学校の教師をしている友人が頭を悩ませていて、友人のアーティストたちと有志で子どもたちと一緒に絵を描く放課後教室を始めました。年度末の6月に発表会を開いて、ライブをやったり壁画を描いたりしています。
アートならではのコミュニケーションの広がりですね。まさにボーダーレスに活動している花井さんが、今後やりたいことや目指していくものはありますか?
現状維持です(笑)。ACMEは次の節目は50周年ですね。このまま世界観を維持してください。あと、ヴィンテージ家具の買い付けを再開してほしいなあ。50周年も、またコラボレーションできたら嬉しいですね。インテリアは、アートよりも生活に根ざしていて毎日使えるところがいいです。このビールジョッキも気軽にガシガシ使ってもらいたいですね。
Special Movie
Text : Chikako Ichinoi
Photographer : Kenta Nagai