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  3. スタンダードな話をしよう。 vol.8 渡邉香織(foxco)
  • Talk to standard.

    vol.8

     

    渡邉香織(foxco)

    気になるあの人はどんなことを大切にして日々を過ごしているのだろう。“その人の軸=スタンダード”にぜひ迫ってみたい。仕事や生き方、好きなものや定番品から垣間見える、その人だけのマイスタンダード。第8回目のゲストは、foxco名義で活躍するイラストレーター・渡邉香織さん。イラストを本格的に始めるや否や、そのカラフルかつ可愛いタッチで瞬く間に人気イラストレーターになりました。さまざまな服を着こなす、ファッショニスタとしても注目の彼女の仕事観、人生観に迫ります。

    Photo_Eda Yuuka
    Styling_Ayumi Hamamoto
    Hair&Make-up_ANNA.【SHIMA】
    Text_Shinri Kobayashi
    Edit_Ryotaro Miyazaki

    渡邉香織

    イラストレーター

    東京都出身。foxco(フォクスコ)の名前でイラストレーターとして活動。高校時代をカナダ、大学1年間をパリ第一大学芸術学部で過ごす。パリ留学中にイラストを描き始める。外資系IT企業との副業で活動していたが、2017年6月に独立してイラスト一本に。雑誌やブランドとのコラボレーションなど国内外で幅広く活動中。
    Instagram:@foxco_kaori

    ちょっとずつでも、いつも何かを自分に課していたい。

    イラストレーターを志したきっかけは会社員時代に見たクリスマスキャンペーンだとか。どんなものだったんですか?

    アニメーションでした。確か、最初は電車で見たのですが、その後も何度か街中で見かけました。内容は、不思議なキャラクター3体がクリスマスの準備をしに出かけるというシンプルなアニメーションです。見たときにすごい疲れてたというのもあるんですけど(笑)、心が温まるような感じがして、自分でもそういう気持ちを与える側になりたいと思いました。

     

     

    会社員からイラストレーターを志すというのは、割と遅めですよね。

    もともと絵は子どもの頃から好きでした。大学時代はプロダクトデザインを専攻していて、デザイン系の仕事に就く人も多かったので視野に入れてました。でも、師匠について作品を作るよりも、自分の名前でできるやり方がいいと思っていたので、クリエイティブな仕事はフリーランスでしたいと考えていました。なので、新卒で入った会社は生活のためにというか、割り切って違う自分の長所を生かせるところを選んだんです。

     

     

    会社員時代の業務の内容は?

    ITのコンサルタントでした。銀行にAI導入の提案をするとかそういうことをしていましたね。

    そこからすごい転換ですね。

    そのクリスマスキャンペーンのアニメを見た時に心が温まると同時に、言い方が難しいのですが、すごく悔しかった。自分もそっち側に立ちたいという気持ちが強まりました。イラストが素敵! という憧れよりも、焦りのような気持ちが大きかったです。ただ、イラストを仕事にしている人は周りにいなかったので、まったく想像もつきませんでした。いつか自分の名前でできればとは思っていたけど、当時はあくまで副業としてでした。

     

     

    小さい頃から絵を描くのはお好きでしたか?

    そうですね。親とレストランとかに一緒に行った時に、紙とペンさえ渡しておけば静かだったのでということもあると思います(笑)。

    他のインタビューで、小学校時代に、ロンドンに住みたくて、斡旋会社に自分で電話して資料を集めて親にプレゼンしたりとか、自立心が旺盛だったのかなと思うんですけど、親御さんの教育方針ですか?

    幼稚園から大学まで続く、いわゆるエスカレーター式の学校に通っていたのですが、同じ学校に通う5歳上の兄の姿を見ているうちに5年後の自分が想像できてしまい、小学生時代は少しつまらなかったです。当時、有志でオーストラリアに2週間ホームステイする機会がありました。その時に、わたしにはできないことがいっぱいあって、一歩踏み出すと広い世界があったんだなと気づきました。例えば、英語が喋れないとか、実はすごくシャイで友達作れないとか。それがすごい悔しいのと同時に扉を開けた気がしました。そこから一気に熱を帯びて、行きたい国への留学斡旋会社を調べて電話したんです。でも、子どもなのがばれてうまく取り次いでくれませんでした(笑)。

     

     

     

    (笑)。ロンドン留学のプレゼンは、成功したんですか?

    中学から行きたかったのですが、ロンドンは費用がすごく高くて、1年の交換留学よりもあわよくば3年残りたかったので(笑)、比較的費用の安いカナダになりまし た。あと、義務教育までは日本で学ぶという親の方針もあって、高校から行きました。

    高校はいわゆる多感な時期だと思いますが、日本とは違う教育はどうでしたか?

    自分には水が合いました。日本にいると、言葉は母国語ですし、家族や友達が助けてくれるから正直楽です。でも、海外では言葉も文化も違うから、不便なことがよく起きりますが、少しの助けがとてもありがたいし、うまくいかないことを頑張って少しずつ修正したりとか、自分でマネージングできている感じが自分自身強くなっていってることを感じて、ちゃんと生きている実感がありました。

     

     

    そういう新しい場所や外に飛び出して、いろんなことにチャレンジしてみるというのは、元からの性格ですか?

    そうですね。同じところでじっとしてるよりは、少しずつでもいいので、いつも何かを自分に課していたいです。

    人を鏡にして、自分はどうかな? と考えるのは嫌い。

    数多くのお仕事を手掛けていらっしゃいますが、クライアントワークとご自身の個展だと意識のモードは違うものですか?

    違います。クライアントワークに関しては、その人に似合う服を着せるとか、額縁が与えられてそれに合う絵を書くとか、テーマやお題に自分の色を足しつつ落とし込んでいくような、アートよりデザインに近い考え方です。クライアントの歴史とか背景を調べながら、それを要素として入れ込んだりするのが好きなので、商業イラストレーターの仕事は大好きです。個展や自分のオリジナルワークでの作品はクライアントがいないので、自身で描きたいものを深く潜って描くイメージなので、仕事のお休みをまとめて取ったり、完全オフの日を作って自分と向き合うようにしています。

     

     

    何か描くときのインスピレーションはありますか?

    旅です。例えば、日本の建物と建物の間には空間があるけど、フランスは隣り合う建物がくっついてるんだなとか、そういう生活、文化、歴史を感じ、想像しながら歩けるような、普通の街並みが好きです。エッフェル塔などのランドマークや他では見たことないかっこいいものというより、そこに住んでる人や生活の中で出来上がったものを見ると、描きたいなと思います。

     

     

    都市風景がインスピレーション元になることが多いんでしょうか?

    でも、描きたいのは人が多いです。ちょっとした人の仕草も国によってガラッと変わってきたりします。そういったものを描き留めておきたいなという気持ちが大きいです。フランスは描きたくなるような人の仕草が多くて、行くたびにいいなと描き留めておきたくなります。

    アニメーションも手掛けていますね。

    はい、いまのところアニメーションはたまにですが、これからちゃんと学ぼうと考えています。

     

     

    イラストを描くときに“違和感”を大切にされていると聞きました。詳しく教えてください。

    良い、悪い両方の違和感がありますが、後者は例えば依頼を頂いた仕事の内容などで何か違うなと思ったらやりません。打ち合わせをして、クライアントさんもいい人たちだったし、生きていくためには必要だと思うこともあります。ただ違和感を感じたら、それが何かすぐには答えられなかったとしても、やらないほうが後々良いことが多いです。

    悪い方の違和感で言えば、例えばどういうところに感じるんでしょうか?

    やっぱり人と人とのやりとりなので、お互い尊敬しあえるかどうかを大切にしています。

     

     

    具体的なモデルでなくてもいいのですが、こういうスタイルの表現者は尊敬できるというようなものはありますか?

    表現者に限らず、やっぱり正直で媚びない人は見ていて気持ちがいいです。

    これまでのお話を通じて、いい意味で負けず嫌いでいらっしゃるのかなと。

    そうかもしれません。悔しいという思いが原動力になることが多いです。

    それは、自分だったらこうするのに、というお話ですか?

    人を鏡にして、自分はどうかな? とは考えないようにしています。そういうのは、いつか嫉妬心へ変わったりしてしまうので。自分自身を見て、もっと出来るから伸ばしたいとか頑張るように心掛けています。

     

     

    漠然とでもいいので、今後やりたいことを教えてください。

    抽象的ですが、もっと、ずっと高く飛んでいたいと思っています。

    渡邊さんのファッション観とプライベート。

    ファッションについて教えてください。好きなアイテムはなんですか?

    ジーンズですね。今日も穿いてきましたが、設営には動きやすいものがいいので、数や種類も増えました。ラフに扱えるのが好きです。

     

     

    絵を描くときはどんな服装ですか?

    アトリエにいるときは一人なので、自分の機嫌が良くなる服を着ています。イベントなどで大きなペイントをするときとかは、ジーンズが多いです。

    服を選ぶ基準はなんですか?

    他のアイテムとの合わせ方は気にせず、第一印象で買うことが多いです。あとは「一生使えるかな」と思った洋服も多いです。

    どんな買い方が多いですか?

    ぱっと見て、気に入った服を買い足していきます。色ものが好きなので、気に入れば購入して、コーディネートは後から考えればいいという感じです。アイテムとして魅力的かどうかを見ます。とはいえ、買う時は、本当に直感ですね。あとは、デザイナーの背景を知って買うのも好きです。

     

     

    プライベートでは、何をすることが多いですか?

    美術館やギャラリーに行ったり、ショッピングや散歩をしたり、体を鍛えるのも好きです。結構アクティブです。

    プライベートな時間はどんな位置付けですか?

    個展の時などは深く潜って制作したいので、その分2ヶ月の完全オフをいただきました。そういう時間は大切にしています。あとはプライベートの概念を特に考えず、いつでも絵を描いています(笑)。

    渡邉香織の定番品

  • おばけいぬの人形

    おばけいぬは私が描いたキャラクターで、個展を開いた時に、立体のおばけいぬを作ってもらったのですが、自分でも驚くほどテンションが上がりました(笑)。そのミニフィギュア版として作ったのがこれです。

  • 両祖母の指輪

    派手な祖母と、質素な祖母それぞれの指輪です。兄の受験で、私が父方の祖父母の家にいた時期がありました。そこで、ひまわりを描いて見せたら「すべての花がこっちを向いてるはずないんだからもっと観察しなさい」と祖父に言われて、よく観察するようになりました。それが絵を描く時にいろんな人の仕草を観察して描きたいと思う原点になった気がします。