Interview
Tシャツを通じて、あたたかな心を受け継ぎ、伝えていく。
在原みゆ紀の“Tシャツ哲学”Tシャツを通じて、あたたかな心を受け継ぎ、伝えていく。在原みゆ紀の“Tシャツ哲学”
ものを大切にする、ということ。言い換えれば、ものを愛する、ということ。それにはきっと、丁寧なお手入れであったり、日々のケアであったり、穏やかな目線が必要であるように思う。
今回の『モノカタル』では、モデルの在原みゆ紀さんが大切にしてきたTシャツたちにフィーチャーする。ふわりと微笑みつつ、Tシャツにやさしく触れながら、まるで自らの子をあやしているかのように、自身の心を語ってくれた彼女。
「Tシャツって、想いを伝える “道具” なのかもしれませんね」と、にこやかに話す在原さんの、すこやかかつのびやかな“Tシャツ哲学”に触れてみよう。
Photo_Chihiro Kiyota
Interview&Text_Nozomu Miura
Edit_Nobuyuki Shigetake在原みゆ紀1998年生まれ。雑誌やカタログ、広告を中心にモデルとして活躍。餃子とビールと町中華をこよなく愛する。2019年には、自身が蒐集する1990年代のヴィンテージTシャツに対する想いを込めた写真集『私のTシャツロマン』をリリースした。
“らしさ” に惹かれて、想いを着る
ー 今日は、在原さんに思いっきり “Tシャツ自慢” をしてもらいましょう。よろしくお願いします。
在原さん(以下敬称略):よろしくお願いします! もう、はちゃめちゃに自慢しますね。
ー まず、Tシャツを好きになったきっかけを。
在原:そもそも服を好きになったのは、お父さんが集めているビンテージのTシャツを着たのがきっかけなんです。彼は、とにかく “物を大切にする人” で。趣味のレコードも、自転車も、もれなくしっかり大切にするんですよ。そういう部分は、大いに影響を受けたなぁと感じます。
ー 物に対する、愛情というか。
在原:まさにそうですね。古着のTシャツは200枚ほど、現行のTシャツは100枚ほど所有しているんですが、とにかくどんどん増えてしまって。実家に保管しているものを含めると、もう、数え切れないぐらい大変な数になっていて。「どこにしまえばいいの!」って(笑)。
ー 在原さんは、Tシャツを “集める” のが好きですか? それとも、“着る” のが?
在原:断然、着る方。と、言いつつも、大切すぎるから洗いたくなくて、着られていないものも多くあるのですが……(笑)。それでも全部覚えているし、いつか絶対に着たいと思う時期が来るんだろうなって。Tシャツって、着るのがとにかく楽しいんですよね。ただ集めるだけで、一切着ないなんて、正直もったいないなぁと感じてしまいます。身につけることで、大好きな心をずっと持ち続けていきたいなぁと思っています。
ー 今日は、そのなかでも特に好きなTシャツを持ってきていただきました。
在原:たとえば、今着ているTシャツなんかは、古着ではなく現行のものなんですが、すっごく好きなんですよ。Cabaret Povalというブランドのもので。友人のユウヤくんのブランドですね。彼は、いつも新作ができるたびに「良いのできたから遊びにおいでよ!」って、声をかけてくれるんです。
ー うんうん。いわば、ちょっとした自慢をしたくて。見てほしくて。
在原:作ったから、見てほしい。作ったから、着てほしい。そう思ってくれること自体がすごくうれしいし、そういうものって、自然と好きになっていくんですよね。こだわりがぎゅっと詰まっているから。好きな友人が、思い思いに好きな物を作って、それを自慢してくれる。そういう、いわば “心のやりとり” って、素敵だなぁと思います。
ー 心のやりとり。ひょっとするとそれ、“愛” と言い換えられるかもしれませんね。
在原:うんうん。そういうポジティブな気持ちが詰まったものは、うれしいですよ。やっぱり。このPROCLUBのボディを使った一着だって、そう。DAIWA PIER39というブランドをやっている中田慎介さんが贈ってくださったTシャツなんですが、贈ってくれた時の言葉がすごくうれしくて。
ー それは、どういったものですか?
在原:「自己満Tシャツを作ったから、着てほしい!」って(笑)。うれしかったなぁ。デザインも、すごく好きなんですよね。一見、無地Tシャツのように見えるけれど、裾の部分にひとつパーツが付いているんです。これ、干すためのパーツらしくて。アウトドアシーンなんかで、Tシャツが濡れてしまうことってあるじゃないですか。その際に、木やテントなんかに引っ掛けて、応急処置的に干せるようになっているんです。
ー DAIWA PIER39も、アーバンアウトドア的ブランドですもんね。すごく “らしさ” が詰まっているなぁ。
在原:そうなんです。“らしさ” やこだわりのようなものが詰まっているアイテムを見ると、ふと(あぁ、すっごく良いなぁ)と感じますね。とってもうれしくなってくるんです。そういうのが、いいなぁ。想いを着る、というか。自分が好きで買ったものは、もちろん大切にするけれど、好きな人たちが想いを込めて、丹精込めて作ったTシャツは、特に手放せないものになりますね。ずっと大切にしたいものたちです。
ひと目見て「これだ!」と思ったら、とにかく買う。着る。
ー 次に紹介していただくのは、化学式? 元素記号……?
在原:これ、めちゃくちゃかわいくないですか?
ー 相当かわいい。プリントが大きめなんですね。
在原:そう、そこがかわいくて! 文字を見る限り、海外の理系大学のものなのですが、なんかもう、おかしいんですよ。元素記号がドカーンと大きくプリントされていて。なんで? って思うし、カンニングじゃん、と思っちゃう(笑)。こういう、ただ単純に「かわいい!」と感じて買うものも多いんです。
ー 見た目でビビッときたもの、というか。
在原:そうそう。贈っていただいたものにもすこやかな気持ちを感じるし、そういう類のアイテムはとっても大切にするのですが、自分がただただ好きになったものも等しく大切にするんですよね。このTシャツは特に古いものでもなく、チェーン店の古着屋さんでたまたま見つけたんです。状態がすごく良くて、きっとデッドストックだったんですかね。自分がこれまで着た回数しか、色落ちしていないTシャツ。
ー 在原さんがビビッとくるものって、どんなTシャツなんでしょうね。
在原:好きなボディやタグなんかもあるんです。90年代のJerzeesだったり、SCREEN STARSだったり。ONEITAのボディも大好きです。そういったものたちにビビッとくることはあるけれど、やっぱり直感ですかね。ひと目見て「これだ!」と思ったら、とにかく買う。着る。そればかりです。
ー なんとなく、直感で。
在原:自分が見つけて「これは最高!」と思えたものって、古くなっても大切にするんですよね。少しぐらいぼろぼろになっても、好きな気持ちを持ち続けていられる。きっとこれからどんどん色褪せていって、いい感じになっていくと思うんです。これは“育てていくTシャツ”ですね。
「好き」のバトンを、つなげてゆく
ー では、最後のTシャツたちを。
在原:これらふたつは、贈り物のTシャツですね。わたし、贈り物が本当に大好きなんです。贈ってもらう方も、贈る方も。全部ひっくるめて、“贈り物” が好きで。そこには、ポジティブな心があるじゃないですか。あったかい心、というか。
ー 贈り物。たしかに。ポジティブな気持ちで、その人のことを考えているような。
在原:そうそう! 「この人には、こんなものが似合うかなぁ。きっと喜んでくれるだろうな。喜んでくれたらいいな」と考えることって、すごくヘルシーなことだと思います。これらのTシャツは、それぞれ、私のお父さんの友人が贈ってくれたもの(左)と、カメラマンの田邊剛さんが贈ってくれたもの(右)。
ー それぞれに、思い入れがあるんですね。
在原:お父さんの友人の方、わたしのこと知らないはずなんですよ。会ったこともないし。でも、わたしがTシャツを集めていることをなぜか知っていて、お父さんに「お前の娘、Tシャツ集めてるよな。今度着ないやつを持って行くよ」って、たくさんのTシャツをプレゼントしてくれたんです。
ー それ、すごいですね。会ったことないのに(笑)。
在原:ほんと、びっくりしました(笑)。しかも、自転車つながりのお友達みたいで、贈ってくれたTシャツも全部自転車モチーフだったんです。すごくうれしかったなぁ。たとえレアなものじゃなくても、すごくすごく古いものじゃなくても、うれしいんですよね。「この人にあげたい!」と思ってくれたことに他ならないから。
ー うんうん。
在原:想いのループ、というか。そうしてプレゼントしてくれたものを、きっとわたしが引き継いで、ゆくゆくは自転車好きの友達に贈ってみたいなぁって。あげちゃいたいんです。受け継いだ気持ちを循環させていくようなイメージで。SDGs(持続可能な開発目標)という言葉を耳にする機会が増えた近ごろ、まずは “心” からスタートしてみるのも悪くないな、と思う。しっかり見つめて大切にしてあげることが、第一に大切なんじゃないかなぁと思いますね。好きでいることこそが。
ー すごく共感します。“好き“には勝てないなぁ。
在原:カメラマンの田邊剛さんが贈ってくれたTシャツも、そうなんですよね。「これあげるよ!」って、モデル仕事の現場でふと贈ってくれた一着なんですが、その思い出込みで好きになっちゃうんです。
ー 思い出込みで、好きになる。すごく良いですね。
在原:毎日着るTシャツだからこそ、そしてそれが、一番肌に近いものだからこそ。贈ってくれた方の気持ちが、すごく近いところから伝わってくるような気がします。うれしいな〜、と思える。それって、すごく素敵なことですよね。だから、Tシャツが好きなんだよなぁ。愛なんですよね、そこにあるのは。
ー ざっくりとしてしまうけれど、在原さんにとって、Tシャツとはどんなものなんだろう。なんだか、すごくポジティブなもののような気がします。
在原:コミュニケーションのツールでもあるし、自己満足の表現方法でもあるもの。そして、“贈ること”を通じれば、Tシャツは心の伝達手段にもなりますね。新型コロナウイルスが流行してしまって、今はできなさそうだけれど、いつか“Tシャツを受け継ぐ会”というのをやってみたいなぁと考えているんです。
ー Tシャツを受け継ぐ会、ですか。
在原:わたしがずっと大切にしてきたTシャツを、ファンのみなさんだったり、大好きな友人たちだったり、とにかく誰かに受け継いでもらう。ただ、それはマーケットイベントとも違うんですよね。ただ買う、ただ売る、じゃなくて。なおかつ、在原みゆ紀が着ていたものだから買う、でもなく。わたしが愛したものを、それから先は別の誰かが愛してくれたらいいなぁ、って。Tシャツへの愛情をつないでいくようなイベントをやってみたいんです。
ー すごくいいなぁ。
在原:大切にする方法って、たくさんあると思うんですよ。着ることももちろんそうだし、コレクションとして飾ることだって、きっと“大切にする行為”だと思う。言い換えれば、“愛すること”として。そのひとつの表現に“受け継ぐ”というのもあるような気がするんです。わたしが、お父さんや彼の友人、わたし自身の友人たちから受け継いできたように、今度はみなさんにも受け継いでいってほしいですね。
おわりに
在原さんは、終始、愛について語った。Tシャツそのものについて、その価値であったり、製造年代であったり、いわゆる “情報”を語ることなく。もちろん彼女の頭のなかには、知識としてのそれらがたくさん詰まっているだろうけれど、それをほとんど話すことなく、ひたすらに “愛情”を語ってくれた。
買う、着る、そして、受け継いでいく。愛着のあるものを循環させていく、ということ。それが在原さんの“Tシャツ哲学”なのかもしれない。なんだか、Tシャツというものをより一層好きになったような、そんな気がする。
T-Shirt Care
プロの洗濯集団「洗濯ブラザーズ」によるTシャツの洗濯方法について
ここでは、在原さんへのインタビューに続けて、『毎日の洗濯が、「嫌いな家事」から「好きな家事」になるように、洗濯の楽しさを伝える活動をしている』という集団・洗濯ブラザーズによるTシャツのお手入れ方法をご紹介。ぜひチェックしてみてください。
なるべく手間のかからない、“Tシャツに適した洗濯”とは?洗濯ブラザーズ・次男の茂木康之です。普段は、世田谷区三宿でLIVRERというクリーニング屋を運営しながら、週末はポップアップという形で全国各地のアパレルショップへ行き、洗濯のノウハウを伝えています。
『モノカタル』の第2回は、Tシャツのお手入れ方法について。
季節柄、どうしても着用頻度が高くなるアイテムです。もちろん、手洗いがもっとも生地に負荷がかからない洗濯方法ではあるのですが、毎日Tシャツで過ごすよ、って人が平日に着た分を週末にまとめて手洗いするとなると……けっこう大変ですよね。
というわけで、今回は、なるべく手間のかからない、洗濯機を使用したデイリーなお手入れ方法をみなさんにお教えします。
「洗濯ブラザーズ」が答えるTシャツ お手入れFAQ
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Q1.襟首のしつこい汚れはどうやって落とすの?
汚れが目立つ際は念入りにプレウォッシュを。白いTシャツには漂白剤を使いたくなりますが、グッと堪えましょう。漂白剤の成分は、繊維を溶かして、服を傷つけてしまいます。なるべく使用しないように。
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Q2.洗濯を繰り返しているうちに首元がよれてきてしまう。防ぐための洗い方や干し方のコツは?
乾いてから首元にアイロンをかけると、伸びを抑えることができます。しかし、それでも着ているうちに多少は伸びてきてしまうので、絶対に伸ばしたくないTシャツは平干しをオススメします。あとは、肩幅の広いハンガーを使用するのも効果的です。
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