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  3. 金子恵治と南貴之、脱線と編集から成るモノづくりの流儀
  • L'ECHOPPEの金子恵治とGraphpaperの南貴之。この両者といえば持ち前の知識と経験を武器に数々の名作プロダクトを世にドロップしてきた業界屈指の別注巧者だが、その多作っぷりからも目を離すことができない。今季は、Graphpaperの2022年春夏コレクションから着想を得た、3種の別注アイテムを新たに製作している。

    一方は「何か思い付いたらすぐに南くんに提案する」と語り、また一方は「金子さんとの別注企画はほぼ全てのことが一瞬で決まる」と語る。この阿吽の呼吸はどのようにして育まれたのだろうか。南貴之が主催するalphaPR内の『喫茶 談話室』で敢行された、肩の力の抜けた対談からふたりのモノづくりの流儀を垣間見る。

  • L'ECHOPPEの金子恵治とGraphpaperの南貴之。この両者といえば持ち前の知識と経験を武器に数々の名作プロダクトを世にドロップしてきた業界屈指の別注巧者だが、その多作っぷりからも目を離すことができない。今季は、Graphpaperの2022年春夏コレクションから着想を得た、3種の別注アイテムを新たに製作している。

    一方は「何か思い付いたらすぐに南くんに提案する」と語り、また一方は「金子さんとの別注企画はほぼ全てのことが一瞬で決まる」と語る。この阿吽の呼吸はどのようにして育まれたのだろうか。南貴之が主催するalphaPR内の『喫茶 談話室』で敢行された、肩の力の抜けた対談からふたりのモノづくりの流儀を垣間見る。

  • PROFILE

    金子恵治(L'ECHOPPE コンセプター)
    セレクトショップ・EDIFICEにてバイヤーを務めた後に独立。その後、自身の活動を経て、2015年にL'ECHOPPEを立ち上げる。

    Instagram:@keiji_kaneko

    南貴之(alpha co.ltd. 代表 / クリエイティブディレクター)
    Graphpaper(グラフペーパー)、FreshService(フレッシュサービス)、OGAWA COFFEE LABORATORYなど、様々なブランドやショップを手がけ、ファッション・カルチャーにまつわるあらゆる領域を手がける。

    Instagram:@minamialpha

  • 「ホックニーだって、モノクロでまとめたくなる日もあるんじゃないかなって(金子)」

  • ―おふたりのご協業の歴史は、2018年のフレンチシャツから始まります。

    金子:そうですね。「一緒に何かやりたいね」と何年も言い合って、ようやくでしたね。

    南:「何かやりたいね」から全然進まない、お得意のやつでしたよね(笑)。

    ―お互いに思いはありながらも、すぐに動き出したわけではなかったと。

    金子:ぼくらはお互いにディレクターで、南くんはデザインもしているけれど、それもディレクター的な目線だろうと思うし、別注アイテムをつくる際にも“作り手と自分”って考え方でやっているだろうから、逆にあまり機会がなかったんですよね。

    ―では、このシャツについてはどのような経緯で製作するに至ったんですか?

    金子:もともとGraphpaperのシャツはすごく好きでL'ECHOPPEにも置いていて、この仕立ての良いシャツをベースに何かできないかなと思っていました。そこで、ぼくらお互いにCharvetのシャツが好きで、個人的にあのシャツ型は現代ではニーズがないかな? と思うフシもあったのですが(笑)、南くんに編集してもらったら現代的になるだろうと思って、話を持ちかけました。

    南:ベースにしたGraphpaperのシャツはインラインで2シーズン目くらいからずっとリリースしているもので、Ralph LaurenとかBrooks Brothersみたいなアメリカ的なデカいサイズのシャツを、イギリスの生地であるTOMAS MASONで作ってみたっていう。このやり方を活かして、フランスのCharvetに、イギリスのTOMAS MASONをぶつけてみようと。

  • ―金子さん発信でスタートすることが多いんですね。

    金子:そうですね。結構、その場の思い付きを提案する感じで。ぼくのアイデアってわりと質素な感じだと思っていて、“王道のちょっと脇道にあるもの”が好きなんですよね。そういったものを「どうかな?」って南くんに提案して、南くんのセンスで編集してもらう、というやり方が多いですね。

    南:すでに編集されて世に出ているものをさらに編集するわけだから、いわば再編集ですよね。

    金子:その結果、「Graphpaperにありそうでない、けどあってもいいよね」ってものが出来上がって、Graphpaperのファンだけでなく、L'ECHOPPEのコンセプトに共感してくれてる人たちにも手に取ってもらえているのかなって思います。

  • ―今回の別注企画もこれまでと毛色こそ違えど、一本の筋が通っているように思います。

    金子:シーズンコレクションに別注をかけたのは今回が初めてですね。これまではスポットで面白いと思ったものを作ることが多かったので。

  • シーズンテーマは”COLORS”。ポップアートムーブメントを牽引した芸術家・David Hockney(デイヴィッド・ホックニー)の作品から着想したカラーパレットや、彼自身のトラディショナルなファッションスタイルをなぞらえたコレクション。

  • ―どういったきっかけで誕生したアイテムたちなのか、簡単にご説明いただけますか?

    金子:展示会で今回のコレクションを見たときに本当に色物しか置いてなくて(笑)。でも本来の南くんを知っているだけに「ここまで振り切るのも珍しいよな」と思ったんですよね。そこで、普段南くんがGraphpaperでやっていることをL'ECHOPPEでやってみるのはいかがだろうと思い付き、別注の話を持ちかけました。L'ECHOPPEからGraphpaperのファンへの提案、という感じですね。

    ―シーズンテーマに沿わず、むしろ完全に逆をいっていますが、南さんはこのお話を聞いたときにどう感じましたか?

    南:金子さんらしい、面白い提案だなと。とはいえ、ホックニーの作品にもモノクロのドローイングやリトグラフなんかもあるので、これはこれで全然ありですよね。

    ―なるほど。

    金子:それにホックニーだっていつもカラフルな服装をしていますが、たまにはモノクロでまとめたくなる日もあるんじゃないかなって思うんですよ(笑)。

  • 「お互いの思い付きが、脱線しながら徐々にかたちになっていく(南)」

  • ―今回のご協業では全3型がリリースされますが、1点ずつお話をお聞きできたらと思います。まず、このスウェットシャツはどのようなアイテムですか? 袖リブがなく、ワンサイズ展開でとても大きいです。

  • 南:Graphpaperの最初期に作ったアイテムで、今季復刻させました。ブランドの根本的なコンセプトが“サイズの概念を無くす”ことで、というのも、袖が長いだとか短いだとか言われるのが嫌なんですよね(笑)。だったら最初から長く作るから、あとは捲るなり折るなり好きなようにしてほしい。そういう想いでこのスウェットも袖を長めにしているのですが、ぼくにとってはわりかしデザインしてる方だなと思ってて、一回だけやって封印していたんですよ。でもお客さんから「あれがまた欲しい」って何度も言われるもんだから、へーって思って(笑)。

    金子:生地も独特で、かなりハリがありますよね。着続けてもコシがなくならなさそうだし、保形性がある。

    南:生地はオリジナルで、限界まで度詰めしてます。吊り編み機で作られた柔らかいスウェットに対しての逆張りをしていて、最新のマシンを使っているからこそできる詰め方なんですよね。現代の、最新のマシンで作られる裏毛スウェットのあり方、みたいなのを出してみようかと。

  • ―一見するとベーシックなアイテムですが、随所にしっかりとGraphpaperのエッセンスが込められていますね。

    金子:本当に南くんらしいアイテムですよね。パッと見はスウェットっぽいんだけどやっぱり上品な感じで、着古すよりはこの綺麗な状態を維持したいな、と思わされる服。袖部分の縫製はフラットシーマになっているんですね。

    南:昔のHelmut LangのGジャンで袖を折り返して着る仕様のやつがあって、それをモチーフにしています。デニムもそうだけど、裏地の表情ってすごく特徴的なので、それを見せて着るのが面白いなって。

  • ―それでリブ無しになっていると。しかし、これが別注アイテムというのがすごく、良い意味で違和感があります。

    金子:見れば見るほどインラインにないのが不思議ですよね(笑)。実はインラインのグリーンもすごく綺麗でオーダーしたかったんですけど、その想いはグッと我慢して……L'ECHOPPEで取り扱うのは別注のホワイトとブラックだけにしました。

  • ―こちらのツータックのリネンパンツについてはいかがですか?

  • 金子:これはGraphpaperのアイテムではなく、L'ECHOPPEで昨年に作ったツータックのビッグチノをベースに、生地を変更しています。今季のGraphpaperはプレッピー、トラッドっぽいアイテムが多かったので、合わせとしてこういうパンツがあっても良いよなって。

    南:とにかく生地がめちゃくちゃ良くて、かなり気に入ってます。

    金子:これ、いいですよね。特に白の雰囲気がめちゃくちゃ良い。リネンのネップも出ているんだけど、すごくモダンで。

    南:近年、歳をとったからかリネンの良さを痛感してまして、どうしてもほっこりしがちで難しい生地なんですけど、どうやってモダンに見せるかに注力していますね。ベースのパンツから生地の打ち込みやコットンの分量を変えてリネンの“カス感”も出して、ちょっとミリタリーっぽいような雰囲気がありつつも綺麗に見せるっていう、結構難しいことをしています(笑)。

  • ―インラインでは同生地で、ミリタリーパンツがリリースされています。

    南:今回のコレクションでは軍モノっぽいアイテムもいくつかあって、モノによってはイギリス軍とアメリカ軍と両型作ったんですよ。イギリス人であるホックニーがアメリカを活動拠点にしていることから着想しているわけですが、ぼく、国がどうこうってのが好きなんです(笑)。モノを作るときも見るときもそういうポイントで考えることがあるんだけど、なんとなくL'ECHOPPEはアメリカとフランスって感じがします。

    金子:まったくその通りですね(笑)。

  • ―お次はケーブルセーターです。Graphpaperとしては少し意外なアイテムに感じました。

  • 南:(Graphpaperでは)初めて作りましたね。これは完全にホックニーのスタイルからのインスピレーションで、ホックニーって、ケーブルセーターのインにボタンダウンのシャツを着てタイを締める、みたいなスタイルをよくしているんですよ。

    金子:白のケーブルセーター、意外とありそうでないんですよね。

  • ―シルエットはもちろんワイドで。

    南:服はデカければデカいほどかわいいと思っているのでもっとデカくても良かったんですけど、ケーブルセーターってデカく作ろうとすると本当に糸の量が多くなっちゃって。このケーブルのところでたくさん糸を使うのですが、多すぎても少なすぎてもバランスが悪いので、何度もやり直しました。

    金子:今回のコレクションは単品ではもちろんですが、全身で着るとすごく良くて。スウェットの上にケーブルセーターを肩掛けしたり、その逆も良いですよね。

    南:プレッピーっぽい感じで合わせてもらったらかわいいと思います。プレッピースタイルをモノクロで、というのが新鮮かなって。

  • ―今回、これまでとは異なるかたちでご協業をしてみて、いかがでしたか?

    金子:今回もほぼ思い付きやふとしたやりとりから発展してますから、アウトプットは違えどやり方は同じでしたね。

    南:ほとんどのことが一瞬で決まりますよね(笑)。展示会や何かのきっかけで会ったときに話を持ちかけていただいて「ああ、いいですね。やりましょう」みたいな。

    金子:1つのアイテムを作るのにたくさん打ち合わせを重ねて、ものすごい時間をかけて、ということはこれまでもしてきてないんです。それは、スタートの段階でもうお互いにゴールが見えているからで、いざやってみて思い描いていたものができなかった、ってことはほぼないですよね。

    南:脱線はしても、着地がブレることはないですね。

    金子:南くんとの協業はこうなると分かっているから、何かアイデアが出ればすぐに提案しています。逆に何も思い付かなかったら、数シーズン空くこともあるかもしれませんね。

  • ―ちなみに、これまでに頓挫してしまった企画ってあるんですか?

    金子:ありますよ。南くん、“日焼け企画”覚えてますか?

    南:あぁ、ありましたね(笑)。

    ―どのようなものですか?

    金子:日焼けで赤っぽく退色しちゃったGraphpaperのネイビーのTシャツがすごくかっこよかったから、それを“日焼け加工”で再現してみようと思って。GraphpaperのTシャツはすごく上質なので、それをあえてエイジング加工するのが面白いと思ってサンプルを作ったりもしましたが……あれは上手くいかなかったですね(笑)。

    南:ガチな日焼けなのか加工なのかが分からなくなっちゃうんです。それでいて加工に手間がかかるからどうしても値段があがっちゃうっていうね。それはなしでしょって(笑)。だったら時間はかかるけど、ただ外に干しておけばいいだけで。

    金子:1年間干しっぱなしにしたTシャツとか面白そうですね。

    南:なんか、熟成肉みたいですね(笑)。60日熟成か180日熟成か選べる、みたいな。

    金子:天日干しシリーズ、良いかもですね。

    南:そういえば、FRANK LEDERの初期の頃のジャケットでめちゃくちゃヤバいのがあって。綺麗なジャケットを鳥小屋にしばらく置いて、そうすると当然いろんなものが付着して汚れていくんですけど、その汚れが酸化すると独特な色味になってペイントみたいに見えるんですよ。当時、「あぁ、天才だな」って思いました(笑)。

    金子:(笑)。そういう実験的な企画は今後やってみたいですね。

    南:いつもこんな感じで、お互いに思い付きを投げ合っています。それが脱線しながらまとまって、徐々にかたちになっていくんです。