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  3. 30周年を迎えてなお、誰も模倣できない新しい実験をEDIFICEにて。渡辺俊美が語る、TOKYO No.1 SOUL SETのいまと矜持。
  • 川辺ヒロシ、BIKKE、そして渡辺俊美の3人から成るTOKYO No.1 SOUL SET。1990年に結成され、サンプリングを主体としたヒップホップ/クラブミュージックのフィーリングを完全独自のポップミュージックに昇華し、カルチャーに敏感なリスナーたちを熱狂させてきた彼らが、30周年を迎えた。今年4月には実に8年ぶりとなるオリジナルフルアルバム『SOUD aLIVE』をリリース。2曲の新曲に加え、いまでは廃盤となり聴けなくなっていた初期の名曲群をバンドサウンドに変換しブラッシュアップすることで、現在進行系のTOKYO No.1 SOUL SETを提示してみせた。今回、30周年を記念してEDIFICEとのコラボレーションが実現。SOUL SETの歴史を彩ったデザインアーカイブが、ニットやスウェットのボディ上に鮮やかに再現されている。このインタビューでは、渡辺俊美に各デザインのエピソードやTOKYO No.1 SOUL SETのいまを語ってもらった。

    Photo_Shota Kikuchi
    Text_Shoichi Miyake

    ─まずは俊美さんが実際に今回のEDIFICEとのコラボレーションアイテムを着用された感想から聞かせてください。

    馴染みのあるデザインが、いわゆるグッズではなく、アパレルブランドのアイテムとしてこういうふうにフレッシュに蘇ってとても嬉しいですね。

    ─ニットなどはなかなかバンドのマーチャンダイズではないですし。

    そう、なかなか物販でニットは作れないですから。すごく嬉しいです。

    ─一点ずつデザインの思い入れについて伺えたらと思います。まずはAkeem the Dreamさんが手掛けられたグラフィックから。

    Akeemとはずっと交流があったんですけど、1999年あたりからCDジャケットやポスターのデザインをいろいろ頼むようになって。SOUL SETは2000年から2005年まで活動休止していたんですが、これは活動再開後にAkeemが提供してくれたデザインですね。Akeemは江川“YOPPI”芳文とHECTICというブランドをやったり、ずっとクールなストリート目線を持っているデザイナーで。発想が一貫してストリートなんですよね。90年代のストリートカルチャーって“裏原文化”という視点で語られがちですけど、あの時代の東京のストリートカルチャーは局地的なものではなく、全世界の若者に影響を与えた最先端の文化だったと思います。SOUL SETも同時代の音楽として意識していたのは日本のバンドではなく、Beastie BoysやRage Against the Maschine、そしてA Tribe Called Questだったりして。意識する基準がそこにあったんですよね。

    ─2005年に再始動してからSOUL SETの音楽的なモードにはいろんな変化があったと思います。

    そうですね。まずは川辺くんのDJスタイルが4つ打ちになったんですよね。それはサウンド的に大きな変化でした。1999年あたりから世界的にサンプリングのクリアランス問題が出てきて、そこからサンプリングでネタをチョイスするというよりも、ダンスミュージックを自分たちでクリエイトするという意識に変化したんですね。

    ─それは今回、8年ぶりにリリースしたオリジナルフルアルバム『SOUND aLIVE』に収録している過去の名曲群が、サンプリングから生のバンドサウンドに生まれ変わっていることにも通底する話ですよね。

    そうですね。活動再開後にアルバムもサンプリングに頼らず、自分たちでイチから作るようになったのは大きいですね。サンプリングで引っ張ってくるネタもあるんだけど、それをぼくが生で弾き直したり、打ち込みし直したりしながら、どんどんフレーズを変えていく。SOUL SETの味のようなものが変化していったのがこの時期ですね。

    ─続いてはスケシンさん(SKATETHING)が手掛けたデザインですが、これは2018年まで年末恒例となっていたLIQUIDROOM単独公演における、2007年のマーチャンダイズ用に提供されたデザインということで。

    そうですね。Akeemもスケシンもそうだし、ぼくらはデザイナーに対して「こういうデザインでお願いします」というリクエストを全然しないんですよ(笑)。

    ─それは意外ですね。

    ずっとそうです。1993年にリリースしたミニアルバム『pure LIKE AN ANGEL』のジャケットデザインもスケシンによるものなのですが、当時からデザインの打ち合わせをしたことはないです。間違いないデザインが仕上がってくると確信しているので、全面的にお任せしているんです。ただ、あれは同じく2007年くらいかな? スケシンがキャロルにハマっていたときがあって。キャロルのロゴをSOUL SETに落とし込もうとして。そのとき初めて川辺くんが「う〜ん……」となっていたのは鮮明に覚えてます(笑)。

    ─レアなエピソードですね(笑)。

    キャロルのロゴもカッコいいんだけど、カルチャーの流れ的にSOUL SETに昇華するのが難しかった。スケシンとの出会いは1990年くらいだと思います。よく芝浦GOLDの大画面で一緒にゲームをやったりしてました(笑)。

    ─え、GOLDでゲームですか?(笑)。それはイベント中に?

    そうです。ぼくとTOKYO AIR RUNNERSのデザイナーの関ちゃんとスケシンとスチャダラパーのBOSEくんで、「ストⅡ」の勝ち抜き戦とかして。まだ盾くん(UNDERCOVERのデザイナーである高橋盾)がGOLDのイベントでUNDERCOVERのTシャツを手刷りで売っていたころかな。

    ─すごい時代ですね。

    いま考えるとそうですね(笑)。NIGO®はまだ学生だったのかな。そういう時代です。当時、ぼくはラフォーレ原宿で「セルロイド」というお店をやっていたので、そのTシャツを売っていて。GOLDは広かったから、ゲームをやったり、ぼくと盾くんと関ちゃんの物販コーナーがあったり。みんなTシャツを売っていてセルロイドは2、3千円でTOKYO AIR RUNNERSは5、6千円だったんですけど、盾くんは1万円で売ってましたね。そのころから付加価値を生むやり方が上手くて感心してました。

    ─改めて、スケシンさんのデザインの魅力は?

    スケシンはSOUL SETのデザインでいつもいろんな実験をしてくれてると思うんです。そこがすごく魅力的ですね。このデザインも謎なんですけど、その答え合わせをしなくてもいいというか。スケシンとは同い年ということもあって共通するカルチャーの好みや感覚が多いし、尊敬もしてます。「ぼくにはぼくの生き方がある」と自分に言い聞かせるくらいカッコいい存在です。それは川辺くんもそうだし。

    ─2007年あたりのSOUL SETのライブについてはどのような記憶がありますか?

    BIKKEのパフォーマンスが変わりましたね。エモーショナルだし、派手になった。旗を持ってステージに上がったり。それまではステージ上でタバコを吸って、酒を飲みながらライブをしてましたけど。

    ─続いてはGROUNDRIDDIMが手がけた「FUCKIN」デザイン。これがニットになっているのが、かなりインパクトがありますよね。

    そうですね。なかなかニットでこのデザインはないと思います。外国人の人が見たら笑っちゃいますよね。「これをニットにしていいの!?」って(笑)。2013年に「One day」という曲のMVをGROUNDRIDDIMに撮ってもらって。そのスタッフにタロウちゃんという子がいて、Tシャツくん(シルクスクリーンプリント機)を使って勝手に作ってきたのがこのデザインで。「すごくいいね」という話になったんです。SOUL SETの活動初期にぼく自身が「FUCK OFF TOKYO NO.1 SOUL SET」というデザインを作ったことがあるんですけど、そのストーリーが20年越しに繋がった感じがあって。

    ─ラストはニューアルバム『SOUND aLIVE』のジャケットがプリントされたスウェットです。

    このデザインは井口弘史くんによるものです。井口くんはかつてILLdozerに所属していて、アイコンを作るのがすごく上手い。2005年にリリースしたアルバム『OUTSET』で初めてジャケットデザインをお願いして。そこからぼくのユニット、THE ZOOT16のジャケットも数多く手掛けてもらいました。『OUTSET』のデザインを仕上げてくれたときに井口くんのSOUL SET愛を強烈に感じて。彼はSOUL SETを最初期から聴いてくれていて、「いまだに1stアルバムが一番好きです。日本人にしかできないスタイルの音楽をやってると思います」と言ってくれるんです。今回も面白いデザインを提供してくれましたね。このデザインから感じるのは、『007』のようなスパイ感もあるんだけど、既存のものを壊すみたいなニュアンスを感じます。

    ─スクラップ&ビルド。それはSOUL SETの核心を突くキーワードでもあると思います。

    そうですね。ヒップホップもそうですけど、何かをサンプリングしてまったく新しいものを作る精神性というかね。そういうイメージが井口くんの中にもあったんじゃないかな。

    ─改めて、ニューアルバム『SOUND aLIVE』にはどのような手応えを覚えてますか?

    面白いアルバムができたと思います。こういうアルバムならずっと作っていけるとも思うし。ここから新しいイメージをつかむのはライブの現場なのかなと。ぼくら3人はもともとリハーサルがあまり好きじゃないんです。3人集まると照れ臭いというかね。その距離感はずっと変わらない。だからライブの本番で実験的なことをどんどんやっていって、身につくものがあるんです。メンバーそれぞれが「もっとこうしよう」って思うきっかけになる。配信も悪くないんですけど、やっぱりライブはお客さんがいてなんぼだなって思います。でも、コロナ禍になって配信の重要性も分かったし、いい勉強ができたなと思うんです。

    ─こういう世の中の状況で30周年を迎えるとは思わなかったけれど、それを悲観するのではなく、いまこの世界で何ができるか想像し、実行するという。

    まさにそういうことですね。いまを否定せずに、前向きに。今回のEDIFICEさんとのコラボレーションも、もしかしたらコロナ禍になってなかったら実現できなかったかもしれないと思うんです。TOKYO No.1 SOUL SETは常に実験しているし、誰のコスプレもしてないので。そのマインドをずっと持ち続けないといけないし、それがあるからこういうコラボの話もいただけたのかなと。

    ─本当に誰にも似ていない、不思議なバランスのバンドですよね。

    ぼくもそう思います。メンバーが一人ひとり独立しているんですよね。変な話、3人とも動物占いが狼なんですよ(笑)。

    ─一匹狼的な性質をそれぞれが持っている。

    だからメンバーに対して緊張するんですよね。あとは「自分はなぜここにいるんだろう?」って考えると、川辺くんとBIKKEに出会えたからで。ぼくは彼らと長く一緒に音楽をやりたい。そのために曲を作るという感じなんです。

    ─俊美さん自身、SOUL SETが30年も続くとは思わなかったですか?

    メンバーは誰一人思ってなかったです。いままで3人とも自分のためだけにSOUL SETをやってきたけど、最近になって初めてリスナーのため、ファンのためにやることを意識しだしたと思うんです。それがニューアルバムを作るモチベーションになった。配信ライブをしようと思ったのもファンのためだし。それはコロナ禍によって生まれた意識の変化ですね。だから、もっと新曲を作らないとダメですね(笑)。

    ─ニューアルバムに収録されている「止んだ雨のあとに」と「Let’s Get Down」という2曲の新曲もすごくよかったです。

    みんなもっと褒めてください!(笑)。面白い曲ができたと思います。基本的にぼくと川辺くんの共通点は世代的にニューウェイブなので。それさえ外さなければ面白い曲はいっぱいできると思います。30周年を記念した『SOUL SETアーカイブ展』も定期的に全国を回っていくし、いろんな人がSOUL SETに興味を覚える場所をこれからも作っていきたいですね。

    ITEM

    渡辺俊美

    今年で30周年を迎えたTOKYO No.1 SOUL SETのボーカル&ギターを担当。ソロプロジェクトTHE ZOOT16は来年20周年。2010年には「猪苗代湖ズ」を結成し、2011年紅白歌合戦出場。2014年に刊行した『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』はベストセラーとなり、2015年にテレビドラマ化、2020年11月『461個のおべんとう』として井ノ原快彦・道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)による映画公開。2021年4月TOKYO No.1 SOUL SETとして8年ぶりのフルアルバム『SOUND aLIVE』をリリース。Instagram:@toshimi_watanabe

    TOKYO No.1 SOUL SET 2DAYS LIVE
    「WE LOVE T1SS」@下北沢CLUB Que
    <会場チケット各日限定100名>

    2021年12月18日(土)〜day1<5P ver>
    開場17:30 / 開演18:30
    2021年 12月19日(日)〜day2<P3 ver>
    開場16:30 / 開演17:30

    【チケット発売中】
    [会場] e+ , Livepocket
    [配信] 配信チケット購入URL
    https://clubque.bitfan.id/events/1328(両日共通)

    前売¥5,500 / 当日¥6,000 +ドリンク¥600
    配信¥3,000
    ※価格表示は全て税込み

    OFFICE QUE:03-5433-2500